――進路を考えるタイミングで、どんな風に過ごしていたんでしょう?

ずっと祈っていました。
「アニメーションを作るのは好きだけれど、これを仕事にしたくない。絵を描きたいという思いは、自己中心的な欲望でしょうか? 私はどうすればいいのでしょうか……」と。

ちょうどその頃はコロナ禍の真っ只中で、みんなマスクを着け、生活も制限され、人と接する機会も極端に減っていました。学生たちも暗く沈んでいました。

そんなとき、教会で牧師から「新しいお祈りのグループをやってみないか」という話が出ました。正直、私はやりたくなかったのですが、何となく神様に「やってみなさい」と背中を押されているような気がして、大学でやることに決めたんです。
自分でポスターを作り、掲示板に貼って、「◯月◯日から10日間、お祈り会をやります」と宣伝しました。

初めのうちは参加者が2人しかいなかったのですが、日を追うごとに増えていって、違う学科からも参加してくれるようになって。
「クリスチャン家庭で育ってきたけれど、改めて祈りの意味や力強さを知った」とか、「うつで苦しんでいたけれど、祈りに救われた」とか、涙ながらに感謝を伝えてくれる学生もたくさんいました。

コロナ禍で途絶えてしまっていた“つながり”が再び生まれたことが、本当に嬉しくて。10日間で終わってしまうのはもったいない、続けてほしいという声があまりにも多かったので、学期に一度、アート学科で“ベスパー”を開くことにしました。

※ベスパー…金曜日の夜に集まり、賛美歌を歌ったり、聖書のメッセージを聞いたり、祈ったりする集会のこと。

ベスパーは、生徒たちが中心となって進めました。4~5人の生徒が美しいハーモニーで讃美をリードし、後ろでは、ギター、ベース、ドラムなどの先生&学生バンドによる伴奏をしてくれます。2〜3曲の賛美を歌ったあと、神学科の学生がメッセージを語り、その後に私が前に出て祈りの時間を導きました。祈りの力について聖句を通して分かち合い、そのあと、隣り合う2〜3人で小さなグループになり、互いのために祈り合う時間を持ちました。そして最後は、再びバンドの演奏に合わせて賛美歌を2〜3曲歌い、全体があたたかく一つになるような流れでした。
活動は回を重ねるごとに広がっていき、コロナ禍で希薄になってしまっていた“つながり”が、むしろ濃く、強く結び直されていくのを感じました。多いときには、なんと100人近くもの人が集まってくれたんです。
感動して涙を流す方、救われたと言ってくれた方を多く見ました。神様が人々を癒していかれる姿を目の当たりにしました。

「本当に神様はすごい。この素晴らしさをもっと伝えたい!」そんな思いがあふれてきて、神様からの祝福をスケッチにして、毎日Instagramに投稿するようになりました。
そうしたらある日、デザイン会社の方からDMで「アドベンチスト教会が毎月発行している雑誌の中で、子ども向けのイラストを描ける人を探している」と連絡があったんです。
それが、私にとって初めてのイラストレーターの仕事になりました。

それから大学では、クリスマスに飾るタペストリーを描かせていただいたり、別のアートディレクターの方から絵本の仕事をご紹介いただいたりと、少しずつ活動の幅が広がっていきました。
神様を信じて、神様のために進んだからこそ、私が思ってもいなかった形で仕事を与えてくださったのだと、心から確信しています。

――神様が祈りに応えてくれたのだと。

そうです。
帰国後は、日本でのつながりを広げるために、ビジネス交流組織に入会しました。
交流会のミーティングでは自分のビジネスを紹介する時間があり、その中で私は、学生時代に経験した苦しさや「もう生きたくない」と思ったほどの深い痛み、そしてアートによって心が救われたことを話しました。
「私は、絵を通して神様の愛や平安、癒しを感じていただき、自分の心に寄り添うことで心の回復を体験してもらえるような機会を届けたいと思って描いています」と。
これは私の活動の原点であり、絵を描く目的そのものなので、避けて通ることができない大切な部分なんですね。
するとある起業家の方から「これまで観てきたどんな絵の中でも、むぎさんの絵には他にない、癒しがありますね。今のお話を聞いて、その理由がよく分かりました。感動しました」と言っていただくことが多くありました。
私自身や作品を通して、誰かが愛や平安、癒しを感じてくださったことを知ったとき、本当に嬉しく、胸が温かくなりました。

――医療施設でも活動をされていると聞きました。

はい、こちらもご紹介でご縁をいただいたお仕事で、東北の病院にA1サイズの作品を飾っていただいています。
薬を使わず、人が本来持つ“情動”の力を引き出す「情動療法」に、私のアートを用いていただいています。

ある病院では、認知症の患者さんが私の絵を見て表情が柔らかくなったり、食事があまりできなかった方が少しずつ口にできるようになった、というお話を伺いました。
もちろん、すべての方にそうした効果があるわけではありませんが、絵を通して少しでも心が和らぐ瞬間がある――それは私が心から願っていたことでもあり、本当に嬉しい出来事でした。

――2025年には小説家・新堂冬樹さんとのコラボレーション作品も発表されました。

はい。ペットロスをテーマにした電子絵本『虹の橋ものがたり』の挿絵を担当しました。
絵は、見る人に壁をつくらずにメッセージを届けることができます。ストーリーは聖書の教えと少し異なる部分もありますが、私はこの機会を神様が与えてくださったと確信しました。普段なかなか出会えない、ペットロスで深く悲しんでいる方々へ癒しを届ける機会だと思い、祈りながら“癒し・幸せ・喜び”が最も届く絵を探し求めて描いた作品です。
新堂さんからは「亡くなった僕の犬は大丈夫だ、と安心できて涙が出ました」と言っていただき、とても嬉しかったです。

――絵を描く上で、大切にされていることはありますか?

「祈り」です。
何を描くときも、必ず「神様、これから〇〇のための作品を描きます。作品を見るたびに、あなたの愛と癒しが伝わるようにしたいのです。そのために私が何をすればいいか教えてください」と祈ります。

そうすることで自分の中でも“何のために描くのか”がはっきりしますし、「神様が一緒にいてくれるから大丈夫」という安心感も得られます。

そのとき思うように描けなかったとしても、祈りによって神様にすべてを委ねているから、「いま描けないことも、きっと神様の計画なんだ」と前向きに受け止めることができるんです。
だからこそ、最初に祈ることは、私にとってとても大切なプロセスなんだと思います。

――神様の愛を知って癒され、平安を得た今、むぎさんをいじめた人たちのことは赦せていますか?

正直なところ、まだ戦っています。

過去の痛みを持ち続けるのは、手のひらにトゲが刺さったまま生活しているみたいで、触れるたびに何度も痛むんですよね。
“赦す”って、「相手のしたことを正しい」と認めることじゃなくて、自分の心を過去の痛みから解放する選択 なんだと思います。
だから、赦しは相手のためというより、自分のための道でもある。イエス様が赦しを教えられたのも、人を苦しめる“罪”や“痛み”から自由にするためでしたよね。だから私は、赦しって“自由へ近づく扉”なんだと感じています。
今も、いじめていた子たちのことを思い出すたびに、「どうか神様、彼女たちを愛せるように、私を変えてください」と祈っています。

――最後に、将来の夢、これからやってみたいことについて教えてください。

いま、認知症情動療法(※)をテーマにした個展を企画しています。
単なる絵画作品ではなく、物語性を持った作品展にしたくて、一つひとつの作品を見るたびに自分と向き合えたり、作品の中のキャラクターと一緒に歩んでいるような感覚を味わえたりする――そんな企画展にしたいと思っています。

※認知症情動療法…認知症の方が持っている“感情の力”を大切にして、気持ちが明るく前向きに保てるようにする方法

そしてもうひとつ、もっと将来的に夢見ているのが、クリスチャンの絵本スタジオをつくることです。神様の愛を誰かに伝えるとき、もちろん聖書そのものを手渡すのも素晴らしいことですが、本を読むのが苦手な人や、文章の難しさで挫折してしまう人も少なくありません。

もっと気軽に、神様のメッセージに触れられる“入口”となる作品として、絵本を作れたらと考えているんです。
そんな作品を生み出す場所としてスタジオをつくって、世界でいちばん美しくて、神様の愛を伝える絵本を制作するのが、私の夢です。

きのしたむぎさんのHP:https://www.mugikinoshita.com/
Instagram:@mugikinoshita

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KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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