――話を少し戻して、20代で会社を立ち上げたとのことですが、もともと起業家を目指していたんでしょうか?

いいえ、まったくそんなことはありません。
アメリカの短大を卒業後に帰国して、就職を考えるタイミングで、やってみたいことも特になく、とりあえず片っ端から30社ほどいろんな企業を受けてみたのですが、ことごとく落とされてしまいました。
だって、当たり前ですよね。「この会社で働きたい!」という熱意もないまま面接を受けているのだから、受かるはずがありません。
そんなとき、たまたま拾ってくれた営業代行を担う会社が独立支援を行っていたんです。

ただ、私の場合は、絶対に独立してやる!と意気込んでいたわけではなく、「せっかく入社できたのだから、ここで頑張らないとまずい。もう一度リクルートスーツを着て就職活動をするのはいやだ」という危機感でいっぱいで、とにかく懸命に仕事に取り組みました。
そうしたら、ありがたいことに「しゃあない、買ったるか」「姉ちゃん、頑張ってるしな」と買ってくださる方が増えていって。
営業という仕事が自分に向いていたのかもしれませんね。
20歳で入社をして、23歳の時に社内独立をしました。

――2010年の創業から2025年で15周年を迎えます。ここまでを振り返ってみて、いちばん大変だったことはなんでしょうか。

そうですね……。あまり知られていないかもしれませんが、営業代行は需要が意外とある分野んです。大手企業などからの引き合いもあって、グループ全体でどれだけスタッフを揃えても追いつかないという状況が今も続いています。
私にとっていちばん大変だったのは、会社を運営すること以上に人材育成です。15年間やってきても、人を育てるというのは、特に一人ひとりのモチベ―ションを維持するのは本当に難しいなと感じています。

――5年前から改めて聖書を読むようになってから、社長としてのあり方に変化はありますか?

それまでは「私は神様に愛されている」くらいの認識しかなくて、聖書に書かれているような「天に富みを積む」というイメージで仕事をしていなかったんです。

でも今は、神様がいま私を通して何をしてほしいのかを考えるようになりました。自分に与えられた時間や能力、労力やお金――そのすべてを神様のために用いてください、と祈るようになってから、。気づけば、スタッフの中から26人が洗礼を受けていました。私自身も驚くほどのことです。

あなたがたは地上に富を積んではならない。
そこでは、虫が食ったり、さび付いたりするし、また、盗人が忍び込んで盗み出したりする。
富は、天に積みなさい。
そこでは、虫が食うことも、さび付くこともなく、また、盗人が忍び込むことも盗み出すこともない。
あなたの富のあるところに、あなたの心もあるのだ。
‭‭《マタイによる福音書‬ ‭6‬:‭19‬-‭21‬ 新共同訳》‬‬‬‬‬

――スタッフの方たちから岡河さんの変化に対して反響はありましたか?

「変わりましたね!」としょっちゅう言われますね。
でも、私自身はまだまだ変わらなければならないと思っているんです。

――それは、なぜでしょう?

最近、クリスチャンの経営者の方が開催している3か月間のビジネスセミナーにオンラインで参加したんです。その方は大きな事業を成功させていて、利益もとても上げている方なんですが、Zoom越しでも伝わるほど愛情にあふれていて。

セミナーの中で印象的だった学びのひとつが、自分を責めるのではなく「今日、自分ができたこと」に目を向けて、神様がいつも赦してくださっていることを覚えよう、というものでした。

主催されている方は言葉で導くというより、自分の生き方そのものでイエス・キリストを体現しているような方で、私も、そうありたいと思うんです。
出会った方に「あれ、この人何か違うな」と感じてもらって、そこから聖書や教会に興味を持ち、洗礼を受ける――そんなきっかけをつくれる存在になりたいと願っています。

――聖書にも「自分を愛するように、あなたの隣人を愛しなさい」(マタイの福音書)とありますが、経営者がこうしたセミナーを受けることで、スタッフとのかかわりにも大きく影響がありそうです。

本当にそうなんです。私はどちらかというと、改善点ばかりに目が行ってしまい、「そのためにはあれが必要、これも足りない」と考えてしまうタイプです。でもセミナーで言われたのは、「不足感を捨てなさい」ということ。自分に足りないものはない、と言われてハッとしました。

会社として利益を出すことはもちろん大事ですが、それ以上に「良かった部分」や「今できていること」に目を向けることの大切さに気付かされました。

――お仕事をされる上で大切にしていることはありますか?

私は、聖書の最大のメッセージである「ありのままの自分が愛されている」という感覚を一人ひとりが心の奥深くに落とし込めたら、仕事もプライベートも、人生全体が大きく変わると思っているんです。
神様の愛は、自分で感じているよりもずっと広く、深く、高く、長い。スタッフにもその愛を感じながら働いてもらえる環境が作れたらいいなと思っています。

もうひとつ、クリスチャンの経営者やリーダーが増えたらいいなとも思っていて。そのためにもまずは自分自身が変えられることが大切だと感じています。
最近は、旧約聖書ダニエル書の一節「賢い神の民は、太陽のように明るく輝く。多くの人を正しい道に導く者は、いつまでも星のようにきらめく」ということばにすごく励まされました。
私は星が好きなので、自分もイエス様のもとに人を導くことができたら、星のように天で輝けるのかな、なんて考えたりもします。(笑)

神様の声を聞きながら、愛に満たされて仕事をしている人が増えれば、「あれ、この人たちは何か違う」と感じる人がきっと出てくる。そうして、もっと多くの人が導かれるんじゃないかと思っています。

――素敵なお話をありがとうございました。

株式会社STEPUPのHP:https://step-up-corp.jp/

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KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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