ゲームクリエイター・yona(ヨナ)さんのモノづくりのコンセプトは「神様が喜んでくれるゲームを作ること」。
2023年10月、PCゲーム用プラットフォームSteam(スチーム)から発売された2D謎解きゲーム「In His Time(イン・ヒズ・タイム)」は、独特のビジュアルや世界観が話題に。2024年5月にはNintendo Switchに移植され、さらなる展開も期待されています。
前編ではyonaさんの経歴や、担当編集者として共にゲーム開発に取り組んだ講談社ゲームクリエイターズラボの織田和馬さんに「In His Time」誕生の秘話などについて伺いました。
―― さっそくですが、ゲームクリエイターとしてのご経歴を教えてください。
yonaさん(以下、敬称略):大学時代、医療工学を学ぶなかでプログラミングの面白さに触れ、勉強という名目でゲームを作り始めたのがきっかけでした。
といっても初めからゲームを作る仕事をしたかったわけではなく、医療機器メーカーに就職しようと思っていたんです。
亡くなった父と同じ牧師になろうと神学校へ進むことも考えたのですが、「自分はどうしたらいいんだろう」と不安や焦りばかりが募ってしまって…神様が示しているのはこの道ではないのかもしれないと思い至りました。
改めて自分に与えられた人生について考えたときに、自分が学んできたゲーム作りを通して“証し”ができたらと、本格的にゲームクリエイターの道を目指すようになりました。
――医療工学を学ぼうと思われたのはなぜでしょう?
yona:父がALS(筋萎縮性側索硬化症)という病気だったのですが、病気が進行してベッドで寝ていることしかできなくなった時、作業療法士が父が仕事ができるよう、父のために様々なものを作ってくれました。
彼のおかげで父は牧師として最後の最後まで働くことができ、病床で本を一つ書き上げることもできました。
作業療法士の彼が私にとってはヒーローのように感じて、私も工学を通じて誰かの役に立ちたいと思ったのです。
懸命に勉強し医療機器メーカーへの就職を目指しましたが、あまり良い出会いはありませんでした。
私がお会いした人たちがいかに利益を出すかという話しかしないため、やがて自分もその利益主義に飲み込まれてしまい、神に喜ばれる生き方を見失ってしまうように感じたのです。
この社会で利益を生み出すことも重要なことの一つであるということが、この当時の私にはあまり理解できませんでした。
――そうだったんですね。
ゲームは子どもの頃からお好きだったんですか?
yona:そうですね。特に高校生の頃は一時期、オンラインゲームにのめり込み過ぎて大変な時期もありました。(苦笑)
オンラインゲームって一つの社会なんですよね。
だんだん仲間が増えて、人気が出てきたりすると嬉しくなって、やめられなくなってしまって。
全く勉強もしなくなってしまいましたし、ほとんど寝ないでゲームしているから、母と朝ごはんを食べながら箸を落としてしまうほどで。
――そんなにハマっていたら、抜け出すのは大変だったのでは…?
yona:そうですね(苦笑)。後になって母から、この時期は本当に辛くて、毎日この状況が変わりますようにと祈り続けていたと聞きました。
その頃は、洗礼は受けていたものの、信仰がどういうものかも、親の愛もよくわかっていなくて。
本当は生きる意味なんて存在しないんじゃないかと思っていたんです。
意味がないんだったら、どう生きたっていいじゃないか。
どうせ死んだら終わりなんだから、効率的に楽しく過ごせばいいじゃないか、と。
でも、そんな人生に対して虚しさも感じていて、どんどん鬱っぽくなっていってしまいました。
ある日、母とのデボーション(※)の中で言われた「神様が生きる意味を与えてくれているんだよ」という言葉が胸に響きました。
自分では生きる意味が見出せないけれど、すでに与えられている。それって素晴らしいことだなと思えたんです。
この経験が、すべてのきっかけにつながっています。
自分自身がのめり込んでいた時期があったからこそ、「ゲームを通して神様のメッセージを届けることができるのでは」とも思っています。
※デボーション(devotion)…英語で「献身」を意味する言葉。聖書を読んだり、祈りに専念したり、「神様とつながる」時間を持つことを指すことが多い
――もう自分が存在する意味を探さなくても良いんだ、と思えたんですね。
改めて「In His Time」のコンセプトについて教えてください。
「In His Time」あらすじ
主人公の少年・オリーは父親を早くに無くし、母・ライラと2人暮らし。学校ではいじめっ子・ボビーの標的にされ、教師の理解も得られず、家に帰れば病に伏せる母の代わりに家事をこなさなければならない日々。
深い喪失感や孤独、不安を抱え、世界から追い詰められていたオリーでしたが、時計職人ジョセフとの出会いをきっかけに少しずつ“希望”を見出していきます。
ジョセフの言葉がオリーの心に変化をもたらし、一つひとつの問題と向き合う勇気を与えます。
果たして、オリーはどのような結末にたどり着くのでしょうか。
影絵のようなデザインが印象的な、2D謎解きアドベンチャーゲーム。
yona:ゲームを通して伝えたかったのは「天国の希望」です。
ストーリーには自分自身の経験を織り交ぜながら、「自分が天国に対して、どのように希望を持っているか」を表現しました。
――私自身の経験として、初めてクリスチャンの人たちの輪の中に入ったときに、わからない“クリスチャン用語”が多くて困惑したことがあるのですが、逆に、クリスチャンホームで育ったyonaさんにとって、クリスチャンではない人にもわかるような表現をする上で苦労はなかったですか?
yona:クリスチャン作家のパトリシア・セントジョン(※)のように、できるだけ難しい言葉は使わず、ごく簡単な事柄を心に訴えかける形で伝えるよう、意識していました。
織田さんや、もう一人の担当編集者の佐藤さんに見ていただきながら、ストーリーを構成していきました。
パトリシア・セントジョン…1919~1993。英国の児童文学作家。1947年に『タングルウッドの秘密』でデビュー。以後、幼児から子ども、青年向けに聖書に立脚した作品を数多く著した。代表作に『雪のたから』『虹の園』など。
織田さん(以下、敬称略):我々編集者も、シナリオの段階で「ここはちょっとわからないです、このままだと伝わりにくいです」ということは率直にお伝えしていました。
それから「あなたはいつも神様に愛されていることを、信じて受け入れるだけでいい」というようなメッセージはストレートに伝えてもわからないから、どうすれば一般のプレイヤーにも伝わるかを考えながら、テストプレイや修正作業を重ねました。
yona:今回、シナリオ作りの工程を通して織田さんから教えていただいたことは自分の中でもすごく大きいですね。
初めはもっと直接的な表現でも理解してもらえると考えていたのですが、伝えたいことをそのまま言葉にするのではなく、プレイヤー自身が「それって、こういうことかな?」と受け取りにいくように流れを作ることの大切さを学びました。
――ちなみに、織田さんがこれまでに担当したゲームで「神様」や「聖書」を取り上げたものはありましたか?
織田:初めてですね。でも、どんなテーマであっても編集者の作業は変わらないんですよ。
ゲームに限らず、小説でも漫画でも、作者の頭の中にあるものをどのようにその媒体に載せて伝えるか、その作業の際に翻訳をするお手伝いをするのが編集者の仕事です。
今回の場合は、yonaさんが伝えたいことを表現することに加えて、どうすればユーザーが最後までプレイしてくれるかを一緒に考えていきました。
後編に続く。
yona(@Yona_unltb)さん / X (twitter.com)
「In His Time」
リリース日:2023年10月3日
プラットフォーム:Steam / Nintendo Switch(2024年5月発売)
プレイ人数:1人
ジャンル:アドベンチャー / パズル
価格:580円
対応言語:日本語 / 英語 / 中国語(簡体字)
PHOTOGRAPH: yona/KODANSHA.LTD.