コロナ禍が転機に。経験ゼロから動画編集に挑戦。/株式会社クロスポイント代表・高岡佳己さん(前編)

数多くのYouTubeチャンネルの運用代行を手がける株式会社クロスポイント。代表の高岡佳己(たかおか・よしみ)さんはコロナ禍をきっかけに動画編集を学んだといいます。前編では、40代半ばで訪れた人生の転機について伺いました。

――さっそくですが、動画編集に携わるようになったのはいつからですか?

2021年です。会社を立ち上げる以前はNPO法人に所属していて、子どもたちを対象にした、歌やダンスのワークショップの事務局を担当していました。
それは、アメリカから招かれた50人の大学生と日本の子どもたち、あわせて250人もの参加者による大規模なイベントでした。
それが、2020年のコロナ禍以降、人が集まることができなくなってしまいました。事業が立ち行かなくなり、オンラインで何かできることはないかと企画したのがzoomを使ったイベントです。
といっても、オンラインで大勢の参加者が同時に歌ったり踊ったりというのは、音がズレてしまう。そこで、参加者一人ひとりに自宅でパフォーマンスを録画してもらい、その動画をつなぎ合わせて編集し、ワークショップの集大成として、参加者全員で鑑賞する。こうしたオンライン事業が、動画に興味を持ったきっかけでした。

――コロナ禍にzoomが一気に普及したことで、オンラインイベントが活発になりましたね。

仕事では比較的早い段階からzoomは使っていたのですが、当初は別にクリエイティブチームがいたので、私自身が編集に携わることはほとんどありませんでした。むしろ私は、動画を“作る側”ではなく、“使う側・見てもらう側”の立場でした。
そうしたら世界中から子どもたちが参加してくれるようになって。「動画って面白いかもと」思うようになったんです。
ところが、コロナ禍は一向に収まる気配がなく、仕事は減るばかりです。若い職員がどんどんやめていくなか、私もこのまま残っていても先が見えないかも……と40代半ばで思い切って独立しました。

――失礼ですが、40代半ばでの独立はかなり勇気が要ったというか、不安も大きかったのでは?

相当不安でした。ちょうどその頃、娘が高校を卒業してアメリカの大学に行くことが決まっていたのですが、コロナの影響で渡航ができなくなり、浪人生活を送っていました。
それでも海外で学びたい、とニュージーランドの大学を受験して合格したんですね。
「これは教育費が必要だ!」と現実が迫ってきて。
親としては、コロナ禍で窮屈な思いをしているのを見ているのも忍びなく、やりたいことをやらせてあげたい、と。とにかくやるしかない、という感じでしたね。

――動画編集は独学で学ばれたのでしょうか?

通信教育です。
それが、若い講師の方の話している言葉がわからないんです。“ポジトーク”と聞いて「ポジティブなトーク?」と思ったら“ポジショントーク”のことだったんですね。こんなことの連続で、正直「これは無理かも……」と思いましたし、娘にもかなり心配されました。(笑)
とにかく必死で、どこへ行くにもパソコンを持ち歩いて勉強していましたね。

――考えようによっては、新しいことを学ぶチャンスを与えられたというか……。

そうですね。たぶん、YouTube関連の仕事をしている人は20代など若い世代が中心だと思いますが、私の年齢が上なことでむしろ安心してくださるお客様が多くて。
年齢層の高いお客様からはよく「若い人の言葉はカタカナ、横文字ばかりで何を言っているのかわからない」という声も聞かれるので、自分にも需要があるんだということに気付かされました。
ひとつの動画を作るのにも、ディレクター、サムネイル作成、企画立案、台本作成、さまざまな工程があり、多くの人が関わっています。それらをまとめて管理するのが運用代行者の役割です。工程が細かく多岐にわたる分、お客様にとってはシンプルで、わかりやすくやりとりができる方がいいんですよね。その点でも喜ばれているんだと思います。

――確かに、若い世代の方とだと、うまく話が噛み合わないこともあるかもしれませんね。

実際に、以前、20代の動画クリエイターの方から「60代の方からYouTubeチャンネルを作ってほしいと依頼があったんだけれど、会話に自信がない」と相談を受けたことがありました。
若い方にとっても、自分の親よりも上の世代と話をすることは萎縮してしまうんですね。

――お仕事は初めから順風満帆だったんでしょうか?

いえいえ、そんなことはなくて……ほとんどお金にならない時期もありました。(苦笑)
初めのうちは徹夜で編集したり、ひたすら修正作業を繰り返したり。
ただ、YouTubeチャンネルは基本的に継続契約が多いので、実績を積み重ねることで新しいお客様をご紹介いただくようになり、そのつながりであるときインターネット番組の編集のお仕事もいただいて。
それをきっかけに、編集以外にも動画作成にまつわる色々な工程を任されるようになっていきました。
私のスキルというよりも、「きちんと納期を守る」とか「会話ができる」といった点で評価されているような気もします。(笑)

――当たり前のことのようですが、とても大切なことですよね。
会社は独立してすぐに立ち上げたのでしょうか?

法人化したのは2024年です。YouTube関連の仕事をする中で、クライアントが企業の場合、「個人事業主相手では依頼ができない」と言われるケースが続いて。
それなら、法人化した方が、お客様にとっても選びやすいのだろうなと思って会社を立ち上げたんです。
会社といっても社員がいるわけではなくて、一つのチャンネルごとに色々なチームを組んで作っています。

チームメンバーは私よりも若い、優秀な方ばかりで、「自分が20代、30代の頃、こんなにしっかりしていたかな「先のことを考えていただろうか」と思うことばかりで、リスペクトする気持ちしかないですね。
私自身が会社員として働いていた時期が長いこともあって、自分にはない専門的なスキルがある人に対して尊敬の念を抱きます。

――年齢を重ねるにつれて、自分より若い世代の方たちと一緒に仕事をする機会が増えますが、いい刺激も受けますよね。年齢にとらわれてはいけないな、ということは私自身もよく思います。

本当にそうなんです。最近は、若い方と一緒に仕事をするときは「私が何かやらかしていたら、遠慮なく言ってね」と伝えるようにしています。
必要以上に相手を緊張させてしまったり、“老害”と呼ばれる存在にはなりたくないなと思って。

――きっと、多くの中高年層が同じようなことを考えていると思います。(笑)

(後編に続く)


KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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