どんぐりの物語

私は、どんぐりが大好きです。拾うのもだいすきです。
10数年前、山道で出会ったどんぐりを持ち帰り 寄せ植えの植木鉢の端に ちょこんと置き、
しばらく その丸い愛らしさに見とれ・・・そして・・・そのまま 忘れてしまいました。

冬が過ぎ春らしくなったある日、寄せ植えの鉢の小さな花に交じって 場違いな ひときわ大きな葉っぱが
ニョキニョキ育っているのに気付きました。
よく見ると、その葉は なんと あの丸くて愛らしいどんぐりを突き破り 芽生えていました。
どんぐりが クヌギの赤ちゃんに変身していたのです。

クヌギの赤ちゃんは すくすくすくすく育ち 小さな植木鉢では支えきれなくなり、
山の段々畑の片隅に植えました。
すると、虫達の大人気スポットになりました。

アリ オトシブミ アブラムシ・・・・・
それから、まだか細い苗木には 定員オーバーな毛虫の群れ。
何度か 葉っぱを食べつくされ 丸禿になりました。
そのたびに、負けるもんかと 枝を伸ばし 若葉を出し、いつのまにか 見上げるようなクヌギの樹になりました。
集まってくる 凝ったデザインの毛虫達。
グロテスクなのに、成長すると 案外あっさりした見慣れた蛾になって がっかりさせられたり、
やっぱり 見とれるほど不気味だったり・・・。
殺虫剤なんて使う必要はありません。・・・必ず、1匹残らず 旅立っていきます。

次にやってくるのは、カナブン ヨツボシケシキスイ タテハチョウ 蜂 クモ ムカデ クワガタ・・・・・、カブトムシ!
そして、小学生の甥っ子達・・・。
目当ては カブトムシ。
虫かごと虫採り網を握りしめ、はるばる 山道を登ってたどり着き、樹液に群がる虫達にしばらく見とれ それから、クヌギの樹を見上げ 一言。

「神やなあ・・・。」

結局 甥っ子達は 虫かごに何も入れずに帰りました。
理由は、(虫達が) とっても幸せそうやから。
ハレルヤ!!

にぎやかで眩しい夏が終わるころ、枝のあちこちに 可愛いどんぐりが出来始めます。
そして、いつの間にか なくなっています。
鳥 ねずみ 狸 イノシシ・・・私以外に どんぐりが大好きな動物達がいるようです。
すべての実りを落として裸になったクヌギの樹、冬空に向かって手のひらを広げています。
何かを じっと待っているようです。
根本には、茶色い落ち葉の布団。虫達が 冬ごもりをしているかもしれません。
この落ち葉の布団、長い時間をかけて 腐葉土に変わり、そこには微生物や菌類の住み家になります。
その数と働きは、数えつくすことができません。

例えば、山の ありとあらゆる生き物たちの糞や死骸、枯れた草木等々、分解し
ありとあらゆる栄養分に変えてくれます。
そこに落ちた雨粒は ゆっくりと浸透してその栄養分を含み、湧き水になり
私達の毎日使う水になり、川から海へと広がりながら
さらにありとあらゆる生き物たちを生み育てることになります。
厚く積もった腐葉土は、大雨が降っても 大量の水をスポンジのように含み せき止
めることが出来るようになります。

今年5月、私の小さな庭の小さな植木鉢で育った どんぐりの苗木が
遠く離れた山深い所に植えられました。
元々あった 豊かな森が破壊され 生き物が住めなくなった場所です。
今頃は雪に埋もれているはずです。
無事に冬を越せるかなあ。 春になったら、新芽を出せるかなあ。
いつか、熊が どんぐりを食べに来てくれたらいいなあ。
50年後 見に行きたい!  私の夢です。

「あなたは御手を開き、すべての生けるものの願いを満たされます。」
―詩篇145:16―




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