歌舞伎町に集まる若者と“友達”に。新大久保「Besties Cafe」鈴木陽子さん 後編

新大久保「きよめキリスト教会」の1階にある「Besties Cafe(ベスティーズ・カフェ)」。前編ではオーナーの鈴木陽子さんに、教会を改装してカフェを開業した経緯についてお話いただきました。後編では、2023年9月頃から行っているという歌舞伎町アウトリーチ(居場所を求めて歌舞伎町に集まる若者たちを支援するボランティア活動)について伺います。

――歌舞伎町アウトリーチは、どれくらいの頻度で行っているのでしょうか?

いまは月に2回です。

――前編ではトー横に集まる若い人たちと「友達になる」ことから始めるとお話されていました。
彼らと交流する中でどんなことを感じていますか?

一人一人違いますが、今どんなことで悩んでいるのかを聞いたり、一度会った子にまた会えたら「前にも会ったよね、今はどうしているの?」と声をかけたり…ただただ寄り添って、話を聞きます。最近では、路上生活をされている方たちも私たちの顔を覚えてくれて、友達のように話しかけてくれるようになりました。

学校にも家にも居場所がなく、親ともうまくいっていない彼らにとって、その場限りの関係で済む“トー横”は楽しい場所で、その場にいる間だけは満たされているんだろうなと思います。
関係が深くなって、ゴタゴタしてくるといなくなって、また新しい子がやってくる――そんな流れができているように感じます。
それから、良くないことを覚えてしまった子は、歌舞伎町に入り浸ってしまうのかな、とも。

ある男の子が「ずっと歌舞伎町にいたらダメだと思っているんだよね。身分証を再発行してもらったら住み込みで働くつもりなんだ」と話してくれたことがありました。トー横にいる子たちの多くは、身分証を持っていないんです。
表面上はチャラチャラしているように見えても、心のどこかでこのままじゃいけない、抜け出したいと思っている。そのことに小さな“光”があると思います。

私自身、ずっと「どうしたらいいんだろう」と思いながら手探りで色んなことを試してきました。元トー横キッズだった子が「Besties Cafe」にお客さんとして来てくれるようになったり、お店を手伝ってくれるようになったり、本当に少しずつですが、個人的な繋がりができている実感があります。

本当は、女の子たちの支援に力を入れたいのですが、なかなか難しくて…。

――どんな点が難しいのでしょう。

ニュース等でも取り上げられていますが、身体を売ってお金を稼いでいる女の子たちが少なからず存在しています。
想像以上に多くの金額を稼げるので、なかなかやめられないんですよね。そして、そうやって稼いだお金をホストなど依存しているもののために遣ってしまう。ホストが女の子にそうやってお金を稼がせているケースもあります。
最近では、トー横に集まる子どもたちの中にも、ホストのようなやり方で女の子に稼がせようとする子たちも出始めました。

――性感染症の梅毒も急増していますし、OD(オーバードーズ)など心配な点がたくさんあります。
かといって、「それの何がいけないの?」と思っている若い子たちにどんな風に伝えたらいいか、確かに難しいですね。

そうですね。
だから私たちも、グイグイ距離を縮めて、こちらの言い分を主張するのではなく、ただ寄り添って、「あなたたちのことを気にかけているよ」「困っていることがあったら相談してね」という距離感で関わっていけたらと思っています。

――カフェの運営やアウトリーチを続ける中で、課題に感じていることはありますか?

1人でできることには限りがあるので、共感してくださる方が増えて、一緒に活動ができたら、とは思います。

歌舞伎町で出会った子ではないのですが、先日、ある男の子から「友達から苦しいと言われて救急車を呼んだんだけれど、どうしたらいいかわからない。助けてほしい」と連絡がありました。
連絡してくれたことが嬉しかったと同時に、親元を離れて東京で一人暮らしをしている人たちはきっとみんな不安を抱えていて、どれだけ不安で、困った時にどうしたらいいかわからないと思いながら暮らしていることに気づかされました。
トー横キッズも、カフェで働くスタッフも、他の20代の人たちも、みんな同じように何か悩みだったり、寂しさ、生きていくことに希望が持てないと感じている。そう思うんです。
この生きづらい社会を作り出してしまったのはすべて大人であり、その責任は大きいと思いますね。

――教会が支援している=勧誘していると思われることは?

根本には福音を伝えたい、いつか教会につながってほしいという思いもありますが、先ほどもお話したように、私は彼らと「友達になる」ことを大切にしています。
何よりも私は目の前にいる「あなたのことを知りたい」ので、「私はクリスチャンです」と言っていきなり福音を押し付けるように伝えることはしません。

イエス様との関係も同じですよね。
「イエス様のことを知りたい」と思う気持ちがあるからこそ、つながっていく。
少しずつ関係を築いていって、1対1のコミュニケーションを通して、私が信じている神様を知ってくれたらいいなという感じです。

――鈴木さんが思い描いている未来や夢はありますか?

カフェが潤って(笑)、いろんな環境の子たちがこの場所を通して回復して、自立して別の場所に巣立って行ったり、ここに残って次に働く子たちを支えたり…そんな場所になれたら理想ですね。

もう一つ、居場所がないとか、生きづらさを感じている若い人たちが住む場所を作りたいという願いもあります。
温かい家庭で家族と過ごした経験がない子たちもたくさんいると思うので、一緒にごはんを食べたり、生活をしながら家庭の温かさを体験できる環境が作れたら――。
行政が運営する養護施設などもありますが、入所するまでの手続きがとにかく面倒で、入所後は自由がないことも多く、どんなに困難な環境にあっても施設には入りたくないという子たちもたくさんいるんですね。
もちろん、ある程度の秩序は必要ですが、自由さがなければ、自分で考えて行動できるようにはならないと思うんです。

――家庭ではなくても日常生活を送る場所や、働く場所はひとつの“社会”ですよね。
さまざまな経験を通して、それまでわからなかったことを知ったり、新しいことを学んだり…。

本当にそう思います。
以前、学童保育で働いていた時に、ネグレクトの家庭で育った子がいました。
その子は、汚れた下着を履き替えることも知らなくて、汚れたパンツのまま、お風呂にも入らずに来ることがあるんですね。
そんな時は――本当は、そこまでしてはいけないのかもしれませんが――親を責めるのでも、その子ができないことを責めるのでもなく、シャワーを浴びさせて、髪の毛をドライヤーで乾かしてあげながら「体はこうやってきれいにするんだよ、髪の毛はこんな風に乾かして、櫛を通すんだよ。そうしたらきれいになるね。下着は毎日履き替えようね」というように、ただ寄り添って、必要なことを教えることを大切にしていました。

――そのお子さんにとって、とても大切な経験でしたね。
でもなぜ、鈴木さんはそこまで子どもたちに心を寄せることができるのでしょう?

自分でもよくわからなくて、「ただただ心が動かされて、生かされているから」で、目の前に出されたものを受け取っているだけというか…私自身がダメな親だったんです。

2年前、娘が自ら命を絶ちました。
そこに至るまでには離婚をはじめ、本当に色々なことがあって…娘の死を知らされたのがJTJ(宣教神学校)に通っていた時期でもあり、「神様はどうして娘を生かしてくれなかったんだ、私は一生懸命生きてきたはずなのに、どうしてこんな風になってしまうんだ」と自分を責め、苦しみました。

――そうだったのですね…。

JTJの講師であり、きよめキリスト教会の主任牧師の重田稔仁さんからは「自分を赦すことからはじめなさい」と言われました。
でも、「自分を赦す」なんて、なかなかできませんよね。
同じようにお嬢さんを自死で亡くされている(JTJの講師で、牧師の)進藤龍也さんに連絡を取った時、こう言われたんです。
「1番、まず泣け! 2番、まず休め! 3番、神の道を歩み続けなさい」。
この言葉に励まされ、支えられたことで、私は神様から離れることはありませんでした。

もう一つ、娘が亡くなったことがわかった日、今の夫が寄り添っていてくれたのですが、仕事を休むために社長に連絡をして事情を伝えたら「キリスト教の人はみんな天国に行くんだろう? 大丈夫だよ。よっちゃんにはキリストが入ってるんだろ」って言ってくれたそうなんです。
クリスチャンはどうしても、「(クリスチャンではなかった)娘は今どこにいるんだろう」と考えてしまいます。
だからこそ、クリスチャンではない社長の「キリストが入っている」という言葉にハッとしました。

そして重田さんの「自分を赦しなさい」という言葉と向き合い、葛藤し続ける中で、「神様は、こんなどうしようもない私を赦してくださったんだ。だから今日も生かされている」という結論にたどり着きました。
まだ、娘の死を受け入れることはできませんが、自分を責めて苦しんでいる人に、「こんな私でも神様は赦してくださって、生きろと言ってくださっているよ。だから大丈夫」と伝えたいです。
だからといって、福音を無理やり押し付けるのではなく、ここは自分の“居場所”だと思ってくれる人が増えたら嬉しいですね。

――鈴木さんの温かい「大丈夫」に励まされ、支えられる人がたくさんいると思います。
大切なお話を、ありがとうございました。

Besties Cafe(ベスティーズ・カフェ)
住所:東京都新宿区百人町2-3-18
電話番号:080-3212-0071
営業日:金曜日11:30~17:00(16:30LO)、土曜日11:30~21:00(20:30LO)
Besties Cafe(Instagram):@besties-cafe




KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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