“生きづらさ“を抱える若い人たちの「居場所」になりたい/新大久保「Besties Cafe」鈴木陽子さん 前編

2024年4月、新大久保駅から徒歩4分の場所にある「きよめキリスト教会」の1階に「Besties Cafe(ベスティーズ・カフェ)」が誕生しました。店名のBestiesは、“Best Friends”を意味する言葉。出会う人と“Besties”のようにお互いを受け入れ、理解し合い、助け合える関係が作れたらという願いが込められています。今回は、オーナーの鈴木陽子さんにお話を伺いました。

――カフェがある場所は駅からも近く、新大久保と新宿を結ぶ「つつじ通り」に面していて、すごくいい立地ですね。
ガラス張りで開放感もあって、素敵な空間です。
教会の1階を改装してカフェにしようというアイデアは、どこから生まれたのでしょう?

主任牧師の重田稔仁さんのアイデアです。
もともとこの場所は牧師室で、入口は裏通り側にしかありませんでした。
古くからこの教会に通っている信徒さんから「表側にも入口があったほうがいい」という声があり、改装するのだったらもっと気軽に足を運びやすい場所、みんなの“憩いの場”を作りたいと思われたそうです。

――鈴木さんもずっとこちらの教会に通っていたのですか?

以前は茨城県土浦市に住んでいて、別の教会に所属していました。子どもたちに福音を伝えるために、改めて聖書について学びたいと通い始めたJTJ宣教神学校で、学長の重田さんと出会いました。
神学校に通う中で、私が知っている神様とは全く違う、優しくて哀れみ深いイエス様と出会ったことで、以前通っていた教会を離れることを決めました。それまでの”苦しい信仰”から解放され、自由な信仰へと変えられて今があります。
卒業後、重田さんに「きよめキリスト教会」へお誘いをいただいたのをきっかけにこちらに移りました。
夫が建築リフォームの仕事をしていることもあって、改装してカフェを開く話もとんとん拍子に進んでいったという感じです。

――カフェのコンセプトは初めから考えていたのでしょうか?

それが、あんまり考えていなかったんです。初めのうちは、これまでに飲食店で働いたことも接客の経験もなく、保育士や介護の仕事をしてきた自分が、なぜカフェをやるのかわからなくて…。
前に通っていた教会でも「古民家カフェをやらないか」と声をかけていただいて、仕事を辞めて衛生管理者の資格も取得するなど、開業準備を進めていました。
そういった経緯もあって、ここでカフェをというお話をいただいたのかもしれませんが、「神様はなぜ私にカフェをやらせようとするんだろう?」と思いながら過ごしていました。

――教会をリフォームしたり、カフェを開いたりしたことで、何か変化はありましたか?

大きな変化としては、毎週日曜日の礼拝に参加される方が大幅に増えました。
以前は5人くらいしかいなかったのですが、徐々に若い世代が増え、今では20~30人が参加しています。
カフェができたことで集まりやすくなったことと、大きい教会ではない分、アットホームな雰囲気を気に入ってくれる人が多いようです。

また、カフェを手伝ってくれている2人の若いスタッフが、この場所を通して教会とつながり、神様を信じるようになったことも大きな出来事です。
1人は、以前はバーで深夜まで働いていたのですが、昼型の生活習慣を取り戻し、今は別のカフェでもお仕事をしています。
もう1人は、就職先でうまくいかず、仕事に行けなくなってしまったのですが、カフェを手伝ったり、いろんなコミュニケーションを取る中で、もう一度社会に出たいと思えるようになり、再び働きはじめています。
そんな2人の様子を見ているうちに、「Besties Cafe」が社会の中で疲れて、生きづらさを感じている若い人たちが回復したり、自信をつけたりして、最終的に自立をするための「通り道」になれたらいいなと思うようになりました。

――歌舞伎町の、いわゆる“トー横キッズ”たちのボランティア支援を始めたのは同じような想いからなのでしょうか。

カフェとは全く別に浮かんだアイデアで、土浦から遠く離れた新大久保に遣わされたのは、何か意味があるのでは、と考えたんです。
地域に根差した活動がしたいと思っていた時に、ニュースなどでトー横キッズのことが話題になっていたので、彼らのために何かできたら…と思い、2023年10月に任意団体「Besties Mission ΙΧΘΥΣ(べスティーズ・ミッション・イクトゥス)」を立ち上げました。

当初は夜間にカフェを解放して、彼らが集まれる場所になればと考えていたのですが、やはり教会と歌舞伎町がつながることは難しくて。
そこで、昨年9月頃から始めたのが歌舞伎町アウトリーチです。
有志と一緒にコンビニで買ったおにぎりを持って行って、声をかけて色んな話を聞くのですが、みんな無邪気に喜んでくれました。
行くまでは昔のヤンキーのような、ちょっと怖いイメージを持っていたのですが(笑)、実際は全然違うんです。女の子も、男の子も、普通に街の中を歩いているような子たちばかりで、おにぎりを渡すたびに「いつもありがとう」とか「お姉さんたち、体に気を付けてね」って優しい言葉をかけてくれるんです。

カフェではドリンクをメインに提供している

――いい子たちですね。

そうなんですよ。みんな、すごくかわいいんです。
定期的に足を運ぶようになると顔見知りの子ができたり、新しい子がまたやって来たり。活動を続ける中で、貧困に苦しむ若い人たちを集めたシェアハウスを運営している方に出会い、少しずつ活動が広がっていきました。
ただ、だんだん課題も増えてきて…。
もともとは、悪い大人たちが彼らに対して行っていること(飲酒や違法薬物、性犯罪、暴力など)が最大の課題と感じていたのですが、トー横キッズの中にも上下関係が生まれたり、彼らを利用しようとする支援団体が出てきたり…。

こうした状況の変化に合わせて、それまで「歌舞伎町アウトリーチに思いがある人ならだれでも一緒に」というスタンスをやめ、2024年3月で一度仕切り直しして、カフェオープンと同時に再スタートしました。
今後は「Besties Mission ΙΧΘΥΣ」の法人化に向けて進めたいと思っています。

――声をかける時に、警戒心を持たれることはありませんか?

初めは「おにぎり持ってきたんだけど、食べる?」というような感じで話しかけます。
みんなと同じ目線になりたいと思って、同じようにダンボールに座って話しかけたら、一気に集まってきたことがありました(笑)。

私が大切にしているのは、目の前にいる彼らと仲良くなること。悩みを打ち明けてくれたら、時間をかけて話を聞きます。
「助けてあげよう」とか「〇〇してあげる」ではなくて、人と人として触れ合って、友達のように仲良くなれたら…そんな思いから、カフェにも“Besties”と付けました。

カフェを始めてからは、コンビニのおにぎりではなく、ここで作ったお弁当を持参しています。
買ったものを渡すことに対して「与えている」ようでいやだったのですが、ようやく手作りの食事を届けることができるようになりました。
「次に何食べたい?」と聞くと「ハンバーグ!」なんて答えてくれるんですよ。

後編に続く。

Besties Cafe(ベスティーズ・カフェ)
住所:東京都新宿区百人町2-3-18
電話番号:080-3212-0071
営業日:金曜日11:30~17:00(16:30LO)、土曜日11:30~21:00(20:30LO)
Besties Cafe(Instagram):@besties-cafe




KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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