教会をはじめ、さまざまなキリスト教関連団体のホームページ制作やWeb周りのサービス全般を担っている「工房ヒラム」。この「たまものクラブ」の生みの親でもあり、これまでに手がけたホームページは200件を超えるといいます。今回は代表・小牧由香さんに改めてお話を伺いました。
――小牧さんとはお仕事で長くご一緒させていただいていますが、改めてご経歴について教えてください。
ずっとIT関係の仕事をされてきたのでしょうか?
そうです。子どもの頃にSFアニメでコンピュータを観てからずっと憧れていて、コンピュータに関わる仕事がしたいと思っていました。
理系の大学に進んで、卒業後はSEとして就職したのですが、結婚をきっかけに退職しました。
しばらくは専業主婦だったのですが、ある時、子育てに悩んで教会に行ったんですね。
そこで元SEだという話をしたら、すぐに教会事務として働いてほしいと言われ、礼拝の日に配る「週報」やホームページ制作を依頼されました。この経験が今につながっています。
――それはいつ頃のお話でしょう?
2001年です。
――インターネットが一般家庭にも普及しはじめた時期ですね。
カラフルな初代i Macとか、ホームページ・ビルダーとかが流行っていた頃。
そうそう、まさにその時代です。懐かしいですね。
当時は今とは違って制作会社はほとんどなかったので、教会のように規模が小さい団体が「ホームページを作ってみたい」と思っても、どうしたらいいかわからなかったわけです。
私もホームページを制作するのは初めてだったので、本を読んだり、調べたりしながら作りました。
その当時は、インターネットがつながればどこからでも更新できる仕組みというものがなくて、更新のたびに教会に行く必要がありました。この状況を何とかする方法がないかと調べ、まだ実用段階とは言えなかったCMS(※)を導入したのです。そうしたら、他の教会から「どうしてこの教会のホームページは更新頻度が高いんだろう」と問合わせがくるようになって……。
娘が通っていた小中学校のホームページを作ったこともありましたね。
そうして制作事例が増えるにつれて、製作スキルも上がり、口コミを通してご依頼をいただくようになりました。
※CMS…「Contents Management System:コンテンツ・マネジメント・システム」の略。Webサイトの構築・管理・運用を行うための管理システムのこと
――本格的に仕事にしようと思ったきっかけは?
教会で働くならきちんと神学を学びたいと思い、神学校に通い始めました。そこで砕かれたというか、改めて神様のために生きていきたい、と思ったんです。
それで、通っている教会の主任牧師に「神学をさらに学んで、もっと教会のために尽くしたい」と話したところ、「あなたは一つの教会ではなく、ITのたまものを活かしてたくさんの教会のために仕事をした方がいい。“教会に仕える”、“神様に仕える”にも、色々な方法があるよ」と言われました。その言葉に背中を押され、2009年に「工房ヒラム」を立ち上げました。
――2024年は15周年だったんですね。
インターネットを取り巻く環境は、この15年でかなり変化していますが、改めて振り返ってみて感じることはありますか?
コロナ禍をきっかけに、教会の意識が大きく変わったなと思います。
それまでは、一昨年のクリスマス礼拝の案内のまま、更新が止まってしまっているような教会のホームページがたくさんありました。
ホームページは初めて教会に来る人にとっても、教会員にとっても大切な情報源です。緊急事態宣言が発令されていた頃は、次の礼拝は礼拝堂を開けるのか、それともオンラインで行うのか、状況に合わせて最新情報を発信する必要がありました。そうなると、担当者の責任が重くなってしまう。中には、教会に奉仕する(※)ことそのものが辛くなってしまって教会を離れてしまった人もいると聞きます。
※奉仕……キリスト教では、神様や他者のために献身することを「奉仕」と呼びます
――それはもはや本末転倒というか、悲しいですね…。
私も教会で事務として働いてきたので、教会の財政の厳しさをよく分かった上であえてお話するのですが、ホームページ制作を「たまたま詳しかったり、得意だったりする教会員の善意」に頼りきるのは、良くないことだと思っています。
すべて“奉仕”として無償で行うことは尊ばれますし、理想だとは思いますが、皆さんが想像されている以上に大変で、負荷が大きい作業です。その方が疲弊してしまう前に、制作会社などに外注されることもご検討いただきたいです。
教会や関連団体からホームページ制作のご依頼をいただくときに、「どんな方に来ていただきたいですか?」と聞くと、100%の確率で「若い人に来てほしい」と言われます。
でも、若い世代の方たちはインターネットで情報を得るでしょう。いまどきのデザインを見慣れた人たちに訴えかけるためには、やはりそこは手を抜くべきではないと思います。
――本当にそうですね。
最近ではChatGPTやAIなど、新しい技術も積極的に導入されているとのことですが。
そうですね。例えば礼拝の説教の要約や議事録にAIを活用したり、データの集計や表作成をChatGPTに頼んだり。AIは学習するので、使えば使うほど、ユーザーの傾向に合わせてカスタマイズされ、よりスムーズにデータ作成ができるようになります。
もちろん、精査やリライトは必要ですが、とても便利ですよ。
人間は、AIが作ったデータや空いた時間を活用して、もう一段階別のことができるようになりますから。
もう一つ、私が最近推しているのはバーチャル空間に教会を作る「メタバース教会」です。
工房ヒラムのスタッフは全員リモートで仕事をしていることもあって、気軽に話しかけられるようなバーチャルオフィスが欲しいと思っていました。
一般的に、zoomをはじめWeb会議システムでは、1ライセンスで同時にオンライン会議ができないというデメリットがありますが、メタバース教会内であれば、同時にいくつでも開催できます。
だから、同じ空間で仕事をしている人にちょっとした用事で話しかけることもできますし、じっくり大切な話をしたい場合はカギをかけられる会議室もあります。ホワイトボードがあったり、参加者全員が画面共有できるシステムも便利です。
――なるほど。礼拝がない平日はリモートワーク中心の教会も多いでしょうから、便利に使えそうですね。
後編に続く。