あなたが辛いとき、ただ隣にいさせてほしい。/キリスト教カウンセリングセンター理事・河村従彦さん

“教会と社会に仕える”ことを目的に1984年に設立されたキリスト教カウンセリングセンター(以下、CCC)。牧師をはじめ、医療従事者や保育士、介護福祉士など、クリスチャンであるかどうかにかかわらず、多くの人が受講しています。中にはすでに心理カウンセラーとして仕事をしている人もいるのだとか。今回は同校の講師で、牧師、臨床心理士の河村従彦(かわむら・よりひこ)さんにお話を伺いました。河村さんは、教会で牧師を務める中で、心理学を学ぶ必要があると感じ、CCCの門を叩いたといいます。

――もともと受講生だったとのことですが、なぜカウンセリングを学ぼうと思われたのでしょうか。

教会に本当にさまざまな方がいらっしゃるので、お悩みなどご相談いただくこともあります。
牧師の教育課程の中にもカウンセリングのトレーニングは含まれていますが、あくまでも神学、聖書に基づいたものであり、臨床心理学にのっとった内容ではありません。
ご相談を承るたびに、自分なりに誠実に向き合っていたのですが、中にはとても深刻な内容や、どう対応していいかわからないような事例があり、このままではいけない、専門的に心理学を学ぶ必要があると強く思いました。
それと同時に、改めて自己理解を深めたいと感じていたことも大きなきっかけです。CCCでカウンセリングの基礎を学んだのちに大学院で臨床心理について学び、臨床心理士の資格も取得しました。

――心理学を学んだことでどのような変化がありましたか?

牧師として務めてきましたが、自分には決定的に「人間理解」が足りていなかったことに気づかされました。根本的に、誤った姿勢で人と接していたのです。
牧師は無意識の内に、自分は「キリスト教を伝えてあげる人」、目の前にいる相手は「その教えを受け取る人」という構図を作ってしまいがちですが、本来は相手と同じ目線に立ち、寄り添う姿勢が求められます。

――「キリスト教カウンセリング」と一般のカウンセリングは、どう違うのでしょうか。

一般のカウンセリングにおいても“寄り添い”ということばを使いますが、キリスト教カウンセリングの場合は、理論背景としてイエス・キリストの教えがあります。
ただ、「キリスト教カウンセリング」といっても、聖書を使ってアドバイスするわけではなく、カウンセリングのセッションの間、聖書を開くこともありません。いわゆる、困っている人にアドバイスする「人生相談」ではなく、あくまで傾聴と共感を基本にした「心理サービス」の提供を目指しています。
こうした「非指示的カウンセリング」は、アメリカの臨床心理学者、カール・ロジャーズの考えに基づくものですが、ロジャーズの発想はキリスト教、特にイエスの教えと親和性が高く、キリスト教の観点からも違和感がないものです。

――わたし自身も“寄り添う“ことの難しさを日々感じているのですが、目の前にいる人に寄り添いたいと思った時に、大切なことは何でしょう?

キリスト教的な観点でいえば「イエス・キリストのように寄り添う」ということになるでしょうか。
臨床心理学的な観点では、人は他人からかけられた言葉で行動変容が起こすことはなく、目の前にいる人に理解され、受け入れられ、寄り添われた時に初めて心が動き、行動変容が変わると言われています。

牧師として、また臨床心理士としてさまざまな方のお話を聴く中で、いつも「援助」とは何だろうかということを考えてきました。これは自分なりの理解ですが……結局のところ、人間が人間を助けることはできないのではないかと思うのです。信仰的に言えば、人を助けることができるのは神様しかいない。
人間が体験することは、一人ひとりオリジナルの経験ですから、本当に理解することはできない。目の前にいる人に寄り添う上で、唯一できることがあるとしたら、“無力”であることではないでしょうか。

キリストは、神の身分でありながら、神と等しい者であることに固執しようとは思わず、 かえって自分を無にして、僕の身分になり、人間と同じ者になられました。人間の姿で現れ、 へりくだって、死に至るまで、それも十字架の死に至るまで従順でした。
《‭‭フィリピの信徒への手紙‬ ‭2‬:‭6‬-‭8‬ 新共同訳‬≫

CCCではカウンセリングの基礎知識や傾聴について学びますが、「自分は学んだのだから、この人を助けてあげられる」と思ってしまったら、それはもう援助ではありません。
大切なことは、常に「この人の前で自分は無力である」ことを認識していること。ただ傍にいて「自分には何もできないけれど、もしも何かできることがあれば聞かせてください」という姿勢が大切であり、これこそがキリスト教に基づくカウンセリングのあり方だと思います。

――確かに。本当に辛いとき、行き詰まっているときは「◯◯しなさい」というアドバイスは意味を成さないですね。

そうですね。例えば「フロイトはこんなふうに言っていますよ」なんて言っても何も届かないし、かえって「自分が抱えている問題を理解できるはずがない」と反発されてしまうでしょう。
無力なまま「隣りにいさせていただいていいですか」というスタンスで寄り添うとき、自然に目の前にいる人を肯定しています。これがイエス・キリストの教えであり、ロジャーズの考え方と親和性が高いキリスト教カウンセリングだと私は考えています。

――どんな方がCCCを受講されているのでしょうか。

受講生のほとんどがクリスチャンで、中には牧師など教会や信徒を取りまとめる立場にある方もいます。本質を突き詰めれば、教会を取りまとめているのは牧師ではなくイエス・キリストです。キリストと同じように寄り添うことを深める上で、CCCでの学びは役立つことが多いでしょう。
また、これから心理学を学びたい方、職業につながる心理職の資格を持っている方、福祉や介護など対人援助職に就かれている方など幅広く受講されています。コロナ禍をきっかけにオンライン受講が盛んになり、遠方や海外在住の受講者も増えています。

――個人的には、学校の先生など多くの人を取りまとめる役目に就いている方にも役立ちそうだと感じました。
2025年度から授業内容がリニューアルするとのことですが、どのように変わるのでしょうか。

初めての方に受講していただく「ベーシック」コースの受講期間が2年間から1年間になり、より通いやすくなりました。短期間になったからといってカリキュラムは縮小せず、より充実した内容になっています。
また、どなたでも受講可能な1日限りの「一般公開講座」も企画しています。ご興味のある方は、こちらもぜひご参加いただけたらと思います。

CCCキリスト教カウンセリングセンターのHP

KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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