ケルトやアイルランドの伝統音楽を取り入れた楽曲の世界観や、美しい歌声が聴く人を惹きつける「eastern bloom(イースタン ブルーム)」の小島崇(こじま・たかし)さん、美紀(みき)さん。
前編では美紀さんの人生の転機を中心に伺いましたが、後編では、崇さんがクリスチャンとして生きるようになってから大きく変化したという人生観や、今後の活動についてお話しいただきました。
――ここまでのお話の中で、「うまくいっていなかった」というキーワードが何度か出てきました。お差支えない範囲で、何があったのか伺っても良いですか?
崇さん(以下、敬称略):那須への移住は、子どものアトピーがきっかけでした。夜も眠れないほど痒いなど症状がひどく、(根本から治すためには)環境を変えた方がいいのではないかという想いと、もっと自然が豊かな場所で暮らしてみたいという願望が重なり、長女が生まれた頃から移住先を探し始めました。
移住後は収入面でかなり苦戦しました。こちらは東京と比べるとどうしても賃金が安いんですね。それでも、自分たちで野菜を育てたりすればなんとか食べていけるだろうと暮らしていたのですが、東日本大震災の時に起きた原発事故で那須の土地も汚染されてしまい、それもできなくなってしまいました。
東京ではとても忙しくて、3日間くらい帰れないのは当たり前だったのですが、予想外だったのはその頃よりも仕事の内容がキツかったこと。ストレスから精神的にダメージを受け、最終的にはひどい蕁麻疹にもなり、次の就職先が決まらないまま退職する羽目になってしまいました。東京と比べて田舎だから、となめていたことを痛感しました。
美紀さん(以下、敬称略):同じ時期に、数年ぶりに音楽活動を再開しました。楽しんで演奏してはいるのですが、売れるわけでもなく、ライブにお客さんが集まるわけでもなく、うだつが上がらない。(苦笑)
いつの間にかお客さんをたくさん集めること、そのものが目的になってしまっていたんですね。そうするとだんだん、私たちは何のために音楽をやっているんだろうと思うようになってしまって。
そんな時にSNSを見ると、知り合いのミュージシャンが活躍している様子を発信していたりして。実際はそれぞれ悩みもあるのかもしれませんが、自分たちと比べては落ち込んでいましたね。
崇:どうにか軌道に乗せようと必死で活動していたものの、悩みが尽きませんでした。
ただでさえ生活が苦しいのに、(音楽活動を)やればやるほど赤字が増えていくんです(苦笑)。
一時期は、もう音楽をやめようかという話もしていたほどです。
そんな時に聖書に触れたことで、気持ちや生活が大きく変わったような気がします。
美紀:本当に、そうだったね。
――崇さんにも、何か心に残っている聖書の言葉がありますか?
崇:僕の場合は、聖句よりも先にインパクトを受けたことがあって。
ある日、本当に金欠で困っていたときに、生まれて初めて「イエス・キリストを介して神様に祈る」というキリスト教式の祈りをささげたことがありました。祈りといっても、愚痴のような内容だったと思います。
そうしたらその数秒後に、同僚が500円のクオカードをくれたんです。すごい!と思いました。(笑)
その直後に、5000円分の金券をいただいたり、次の週には50000円のボーナスが出たりして。
これまでにそんな経験をしたことは一度もなかったので、本当に驚きました。
その時、本当に必要なものはお金ではないんだと気づいたんです。そして、生活に必要な分のお金は、与えられるんだ、と。
この経験が僕にとっての始まりでした。
――ダビデのような素直な祈りが届いたのかもしれません。(笑)
お2人が洗礼を受けたことで、お子さんはどんな反応をされましたか?
美紀:特に何か言われたことはありませんでしたが、今では子どもたちも洗礼を受けて、家族全員クリスチャンなんですよ。
――それはすごい! お子さんたちは何がきっかけだったんでしょう?
美紀:「親が変わった」と言っていましたね。私たちの変わりっぷりに、何かあると感じてくれたようです。
――崇さん、美紀さんご自身は、クリスチャンになってから何か変わったと感じていますか?
崇:先ほどお話したように、家族や仕事、お金に関することなど、物事に対する考え方が大きく変わりましたね。
音楽に対する姿勢も、以前は「自分の力で、自分のために頑張らなくては」と思っていましたが、今は「神様に与えられた“たまもの”として、ただ神様の栄光を現すために用いる。それだけでいい」というか。
プレッシャーがなくなったので、すごく気が楽ですし、演奏にも余計な力が入らなくなりました。
美紀:そうそう、自分のために歌っていないんですよね。
――歌うことも楽しめるようになりましたか?
美紀:そうですね、歌うこと自体が楽しめるようになりましたし、「神様の栄光を現す」ことが目的になったことで、一つひとつのライブに意味を感じるようになったというか。
色々な所からお声をかけていただいてライブやコンサートを行っているのですが、仕事というよりも、少しでも“種を蒔く”ことにつながれば……という想いで歌っています。
崇:最近では、ライブではオリジナル曲と、讃美歌を織り交ぜながら楽しく演奏しています。教会だけでなく、ライブバーやカフェ、スナックで歌うこともあるんですよ。
――スナックで讃美歌! 素敵ですね。
崇:初めはちょっと迷いもありましたが、楽しく酔っている人たちの前でキリストの話をしたりして、これは“あり”だなと思ったんです。
――むしろそういう場所にこそ、求めている人はいるかもしれません。
オリジナルで讃美歌も作られているんですか?
美紀:1曲だけ、つい最近ですが初めて讃美歌が生まれました。
実は、洗礼を受けてから最近まで、作品が作れなくなっていたんですね。
余裕がなかったということもありますが、クリスチャンとして間違いのない曲を作らなければいけない、というプレッシャーを感じて、怖くなってしまって……。
一方で、自分の作品を使って“営業”することに対して、「悪いことではないか」という想いもありました。
ようやく時間ができて、さぁ曲を作ろう、歌詞を書こうと思い立ってもやっぱり作れなくて。
――同じように悩むクリスチャンのクリエイターは多いかもしれません。
その壁をどうやって乗り越えたのでしょう?
美紀:ふと、お世話になった牧師さんに教えていただいた、「お祈りをする時は、自分の想いを言葉にして祈るだけではなくて、神様の言葉を聞くんだよ」という言葉を思い出しました。
それで、「私が神様の栄光を現し、歌うために最善の曲を与えてください」とひたすらお祈りをしました。そうして心を落ち着かせたら、メロディが思い浮かんだんです。これはきっと、神様が与えてくださった曲だ、と思いました。
歌詞は、聴衆に聞かせるというよりも、私が神様に伝えたい想いを素直に書きました。
――とても素敵です。移住をはじめ、ご家族の中に起きたことなど転機がたくさんあったかと思いますが、いまの人生に満足されていますか?
崇:苦しい所を通らされたことも含めて、すべて導かれたのだと思っています。色々なことがありましたが、今は家族みんなで支え合っていて。
美紀:自然に囲まれた中で生活ができて、子どもたちの環境も落ち着いて……本当に、いまが一番平和ですね。
――今後はどんな風に活動をされたいと思っていますか?
崇:一時期は、「クリスチャンだから、これからは讃美歌だけを歌っていくべきではないか」というような、変なプレッシャーを感じていたこともあったのですが、神様から与えられた“たまもの”を生かしていけばいいのだ、と気づきました。
あれはダメ、これもダメ、というやり方は、きっと神様は喜ばないと思うんですね。
讃美歌やオリジナルソング、クラシック、伝統音楽……色々な歌を歌いながら、クリスチャンとして生きる証になるような活動ができたらいいなと思います。
美紀:私たちがライブのMCで語る言葉だったり、音楽に対する姿勢だったりが、“証”になれば理想ですね。
曲作りや、アルバム制作にも取り組んでいけたらと思っています。
――eastern bloomの楽曲を聴いていると、様々な国の音楽を融合したような独特の世界観に引き込まれます。
今後の活躍も楽しみにしています。
【eastern bloom】
小島美紀(ボーカル・アコーディオン)/小島崇(アイリッシュブズーキ・ギター)
2004年、トライエム(メルダック)よりアルバム “Capyba-land”(カピバランド)でデビュー。
2011年震災後に活動を再開。ケルト・中東・ブリティッシュロック・ジプシー音楽の要素を取り入れたオリジナル楽曲を制作し、ライブ活動を展開している。
神秘的かつ温かく包み込むようなオリジナル楽曲、伸びやかで澄んだ歌声、異国情緒あふれるギターフレーズ。「まるで、異国に迷い込んだような世界観」と評される。
現在、オリジナルアルバム4枚、クリスマスアルバム1枚をリリースしている。
2019年より夫婦ともにクリスチャンとなり、トラディショナルに加え、賛美歌も積極的に歌っている。
公式サイト:http://www.easternbloom.net/
@eastern_bloom(Instagram)
※ライブスケジュールなど、最新情報は公式SNSで随時発信中