「アトリエ・アステール」は店舗を持たない焼き菓子のお店。オーナーのReiさんは、もともと趣味でお菓子を作っていましたが、コロナ禍や出産をきっかけに一念発起したといいます。あらためてパティシエに師事し、基礎からお菓子作りを学びました。現在はオンラインや教会のイベントなどでお菓子を販売するほか、お菓子教室も開講しています。
――Instagramによると、昨年12月に「アトリエ・アステール」を立ち上げたとのことですが、きっかけがあったんでしょうか?
お菓子作りそのものは以前から好きで、時間を見つけてはタルトやチーズケーキを作ったりしていたんですね。本格的に作るようになったのは、この4~5年のことです。
産休&育休とコロナ禍が重なって、思うように動けなかったので時間があり余ってしまって。いわば時間つぶしのような感覚でお菓子をたくさん作っていました。
だんだん、もっとレパートリーを増やしたい、オリジナルのお菓子も作ってみたいなとか、いずれは自分の工房を持てたらと思うようになって。そんなときにInstagramで知った、パティシエの方が開いているオンラインレッスンであらためてお菓子作りを基礎から学びました。私はもともと研究職で、とことん調べないと気が済まない性格なのですが(笑)、レシピ通りにお菓子を作っても「ちょっと違うな…」と思うことも多くて。自分が好きな味に最短距離でたどり着くには、きちんと勉強する必要があるなと思ったんですね。
最近、需要が高まっている米粉のお菓子づくりや、アイシングクッキーも習いはじめて、JSAアイシングクッキー認定講師の資格を取得しています。
――コロナ禍以降、多くの企業でリモートワークが導入されて、場所や時間にとらわれない働き方を選ぶ方も増えてきました。
本当にそうですね。お菓子教室の「オンラインレッスン」が行われるようになったのも、コロナ禍がきっかけだったと思います。
――そういえば、クリスマスのシュトレンをはじめ、おなじみのお菓子の中にもキリスト教にまつわるものがたくさんありますね。
ええ、今後はキリスト教関連のお菓子も作っていきたいと思っているところです。
今年(2025年)のペンテコステ(※1)に合わせて販売したクッキー缶には「ハマンの耳」と呼ばれる三角形のクッキーを入れました。旧約聖書『エステル記』に書かれているプリムの祭り(※2)に由来するお菓子で、古代小麦粉を使っています。
※ペンテコステ…イエス・キリストが復活した日(イースター)から50日後の日曜日に、キリストの弟子たちに天から聖霊がくだり、教会が誕生した日
※プリムの祭り…ユダヤ人の王妃・エステルと、その叔父・モルデカイが、ペルシャの高官・ハマンが企てたユダヤ人抹殺計画を阻止したことを記念する祭り(エステル記9章)

文中に登場する「ペンテコステ」のクッキー缶。中央の三角形のお菓子が「ハマンの耳」
――Reiさんは子どもの頃から教会に通われていたんでしょうか?
いえ、むしろ子どもの頃は、宗教とは無縁でした。
初めて教会に足を運んだのは大学時代です。そこで出会った人たちはみんな親切で良い方ばかりだったんですが、太陽系の話を持ち出して聖書と照らし合わせようとしたり、神様が存在していることを無理に説得しようとしている印象を受けて、受け入れられなくて。
教会に通うようになったのは、卒業後に就職した会社で出会った、クリスチャンの同僚がきっかけです。初めは、私と年齢が近い女性の牧師さんの自宅で食事会を開くから行ってみないかと誘われて、「1人だし、暇だし、行ってみるか」という感じだったのですが。(笑)さらにその場で、教会で行われるクリスマスコンサートに誘われて行ってみることにしました。
――クリスマスコンサートは、いかがでしたか?
コンサートで歌われた女性のお話が印象的でした。そもそも、コンサートでそんな深い話をされるとも思っていなかったので、驚きもありましたね。
その方は、もともとカトリック信徒だったのですが、日本でプロテスタントの教会に出合い、改宗されたそうです。当時の苦しみや葛藤も含めて素直に語られていたこと、プロテスタントとの出合いによって人生が楽になったというようなことをお話しされていました。
――初めて教会へ行った大学生の時とは違って、洗礼を受けたことで人生が変わった方のリアルなエピソードに心を動かされたのでしょうか。
そうですね、この時を境にキリスト教に対して興味を持つようになりました。だからといって、すぐに信じたわけではないんです。もともと理系ということもあって、いわゆる進化論を信じていたというか……。
こちらの教会は、生協を立ち上げた賀川豊彦とゆかりが深かったんですね。そんなこともあって、ある人にすすめられた賀川豊彦の著書、『宇宙の目的』を読んでみたら、面白くて。一般的に、宇宙はビックバンによって誕生したと認識されている方が多いと思うのですが、その背景にも神様の目的があるんじゃないか、というような考察が書かれていて。「なるほど、そんな考え方もあるのか」と興味を持ちました。
――教会に通うようになって、考え方や価値観は変わりましたか?
結局、だれもがみんな、何かを信じて生きているんだなと思いました。例えば、「神様はいない」と言っている人は、「いない」ということを信じているんですよね。
子どもの頃は信仰を持ったり、その教えに従ったりするのは良くないことだと教えられてきましたが、「なんだ、(自分が信じたかったら)信じてもいいんだ」と思いました。
何より、教会の居心地が良かったんです。赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年齢層の人が集う、会社ともプライベートとも違うコミュニティの中で過ごしているのが楽しくて。
2013年の年末から通いはじめ、翌年の5月に「洗礼を受けたい」と申し出ました。
――それは、何かきっかけがあったんでしょうか?
聖餐式で配られるパンが食べたかったんです。(笑)
※聖餐式(せいさんしき)……イエス・キリストが十字架にかかる前の晩、弟子たちと共に最後の晩餐をとった際にパンとぶどう酒を分かち合ったことを記念する儀式。
毎週日曜日の礼拝で行われ、一般的には、洗礼を受けた信徒のみが参加できる
――パティシエらしいというか、ちょっと変わった動機かもしれません。(笑)
この教会の聖餐式は立式で、自分だけ座っているのがちょっといやだったんです(笑)。
洗礼を受けるタイミングは、それぞれに色々な背景があると思うのですが、私の場合は何か大きな出来事があったわけではなく、ずっといいな、素敵だなと思いながら通い続けていて、ある日の説教で「光が見えた」というか……「今日、言おう!」という気持ちになったという感覚です。
ただ、昔から何かにすがりたいという気持ちはあったんですね。「明日は試験だから助けてください」と願ったり、お守りを持ち歩いていたりしたこともありました。
ある時、教会でそんな話をしたときに、「神様は自分にとって便利に、思い通りに動かせるようなものではないよ。あなたは一体、誰なんだ」と言われて、ハッとしました。
――その一言は、ぐさりとささりますね。
(後編に続く)
アトリエ・アステール(Instagram):@rei.x.sweets