偶然聞いた「音」が、人生を変えるかもしれない。/サウンドエンジニア・小林仰志さん(後編)

「マグズサウンド」代表の小林仰志(こうじ)さんは、教会の音響機器の調整をはじめ、さまざまな現場で音響(PA)として活躍しています。前編ではこれまでの経歴について伺いましたが、後編では音響の仕事にかける想いや、思い描く未来についてお話を伺います。

――お仕事をされる上で、大切にしていることはありますか?

聖書に書かれているように、常に「小さなことにも忠実」であることです。どんなに小さな仕事と思えるようなことでもおろそかにせず、礼拝堂のどの場所からも、語られる言葉がクリアに聞こえるよう、一つひとつ取り組むことを心がけています。

ごく小さな事に忠実な者は、大きな事にも忠実である。ごく小さな事に不忠実な者は、大きな事にも不忠実である。
‭‭ルカによる福音書‬ ‭16章‬‭10節‬(新共同訳‬)‬‬‬‬‬‬‬‬

――思い描く未来や、将来の展望はありますか?

もっと、クリスチャンのサウンドエンジニアが増えてほしいなという思いはあります。といっても、そもそもサウンドエンジニアが少ない上に、クリスチャンとなるとさらに範囲が狭くて……。
現在、日本には8000軒の教会があるといわれています。
前職からずっと各地で音響セミナーも開催していますが、これまでに音響設備の調整や、コンサートなどを通して携わってきた各地の教会の音響担当者の方の技術が向上して次の世代の人に受け継がれ、すべての教会で、いいサウンドで礼拝ができるようになることが理想ですね。

――ちなみに、日本にはコンサートや舞台、テーマパークなど、PAの存在が欠かせない現場がたくさんあると思うのですが、この仕事を志す人が少ないのはなぜでしょう?

いまはコンビニやカフェなど、いつでも、どこでも何かしらのBGMが流れていたり、スマートフォンでも音楽が聴けたりする時代です。「音を大切にする」という価値観よりも、「音が聴こえているのは当たり前」という感覚の人が多いのではないかと思います。

――礼拝においても「それなりに聞こえているから、これで大丈夫でしょう?」というか……。

まさにそうです。これまでに数100軒の教会の音響設備を見てきましたが、その場所にいる方は「音、ちゃんと聞こえていますよ」と言われます。でも、ほとんどがプロの視点からすると、“聞こえている”とは言えない状況なんですね。
実際に僕が調整をすると、みんな「こんなに違うなんて!」と目玉がとび出るほど驚かれます(笑)。
僕は牧師の息子ですから、毎週父が部屋にこもって、礼拝で語るメッセージを準備する姿を見てきました。心を込めて情熱的に語っているのですが、目の前にいる人々に「どのように聞こえているか」を考える余裕まではないと思うんです。だから、大切なメッセージが会衆に届かないこともある。それってすごく悲しいし、もったいないですよね。
音の聞こえ方ひとつで、メッセージの伝わり方も大きく変わってしまうんです。
これからも音が与える影響、もたらす効果を色々な教会に伝えていけたらと思っています。

――小林さんとお話をして、改めて音響の大切さを痛感しました。今は、教会関連の音響のお仕事がメインですか?

教会関連と、それ以外と、半々ですね。
どちらかに偏らないよう、バランスを保つことを心がけています。

――素敵ですね。教会やクリスチャンの世界はちょっと独特で、閉鎖的だったり、クラシカルな価値観が根強かったりもします。教会の外にも素晴らしいものはたくさんあり、次の世代へ伝えていくためにも、“イマドキ”の価値観を知ることは大切なのではと感じていました。

そうですね。教会の中だけで盛り上がっていても、――個々の信仰は成長するかもしれませんが――、地域や身近な人々に福音を伝えることは難しいでしょう。
僕自身は、めまぐるしい速さで変化する時代の中で、あえてその渦に入り、世の中で学んで得たものを教会に伝えられたらと思っています。

もうひとつ、世の中で「クリスチャン」として生きることも、すごく重要だと思っていて。といっても、やたらと「自分はクリスチャンです!」と言って回るわけではなく、神様に与えられたタイミングで、必要なことを語れるように準備をしておく、という意味ですね。

また、わたしが適切な言葉を用いて話し、福音の神秘を大胆に示すことができるように、わたしのためにも祈ってください。
わたしはこの福音の使者として鎖につながれていますが、それでも、語るべきことは大胆に話せるように、祈ってください。
‭‭エフェソの信徒への手紙‬ ‭6‬章19‬~20節(新共同訳‬)‬‬‬‬‬‬‬

――本当に、そうですね。

もうひとつ、現代的な音楽の側面としては、子ども向けのミニストリー(※)「ちゃら -こどもさんび-」にも力を入れています。
2023年からYouTubeチャンネルを立ち上げ、毎月1曲ずつ、親子で一緒に楽しめるオリジナルの讃美歌をアップロードしてきたのですが、ついにDVD付き1stアルバムの発売が決まりました。

※ミニストリー…教会では主に、教会や信徒が聖書のメッセージや信仰について広く伝えるための活動全般を指します。

――おめでとうございます! 子どものための讃美歌を作ろうと思われたのは、ご自身にお子さんができたたことも影響がありますか?

そうですね。もともと保育士を目指していたこともありますし、作詞・作曲が趣味だということもあります。
先ほどもお話したように、僕はクリスチャンホームで育ちながら、“形”だけの信仰で、本当の愛を知らずに大人になりました。だからこそ、自分の子どもだけでなく、たくさんの子どもたちに、幼い内から本当の神様の愛に触れてほしい、という思いは強いです。ご家庭はもちろんのこと、教会付属の幼稚園や保育園などでも、CDやDVDを活用してもらえたら嬉しいですね。

――素敵なお話をありがとうございました。

マグズサウンド(Facebook)
ちゃら -こどもさんび-(YouTube公式チャンネル)




KASAI MINORI

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主にカレーを食べています。

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