紙媒体からロゴやグッズまで。導かれるままにデザインの道へ。グラフィックデザイナー・阿久津さゆりさん

 

――どんなお仕事をされていますか?

グラフィックデザイナーです。
企業やブランドのロゴや、カタログなどの紙媒体、Web、グッズデザインを手掛けたり、ブランディングから携わることもあります。

――ひと言で“グラフィックデザイナー”といってもいろいろなお仕事があるんですね!
いつ頃からデザインに興味を持たれたのでしょう?

私の両親が出会ったのがデザイン学校だったり、父がデザイン関係の仕事に就いていたりということもあって、“デザイン”は子どもの頃から身近な言葉でした。
美術館にもよく連れて行ってもらいましたし、家庭内では「このデザイナーの家具がかっこいいね」「○○というアーティストがいいね」という会話もよくされていて。

大学進学を考えるタイミングで、将来なりたいものを思い描いたときに頭に浮かんだのが、デザイナーとパティシエでした。
お菓子作りも大好きだったんですが、デザインを学んでおけば、後に色々なことに応用ができる。本当にパティシエになりたかったら、その後でも遅くないかもしれない――そんな確信から、デザインの道を志しました。

――考えてみれば、お菓子作りにもデザインの要素が含まれていますね。
どんな風に経験を積まれていったのでしょう?

幸いなことに、当時私が通っていた教会に、プロのデザイナーを中心に構成されたグラフィックチームがあったんですね。
そこで、礼拝で配布する印刷物や看板などを作るお手伝いをさせていただいて、自分がデザインしたものがカタチになるという経験をさせていただきました。

就職活動は苦戦しましたね。当時、リーマン・ショックの直後で、就職氷河期再来といわれた年で、周りもアルバイトから始めるのが当たり前、というような状況で…。
アルバイトよりも時給が高いからと派遣社員で職を探そうとしたのですが、実務経験がないと雇ってもらえない。社会の厳しさを、身をもって知りました。
そんな中で音楽雑誌、それもロック専門誌の編集部に拾っていただいて。派遣でアシスタントディレクターとして働くことができました。

――ロックが好きだったとか?

それが、まったく興味がなかったんですよ(笑)。
むしろ、社外秘の情報を多く取り扱うから、興味がない人を探していたと言われました。
ここではほんの数か月でしたが、雑誌や書籍ができるまでの流れ、裏側を観ることができていい経験になりました。

その後、1年ほどペルーの親戚の家にホームステイしながらスペイン語を学んで、帰国後に登録した派遣会社で紹介されたのが、前職の文具・雑貨メーカーです。
もともとは事務職の募集だったのですが、「雑貨のデザインをやってみないか」と声をかけていただいて。

さゆりさんがデザインを手がける「esther rose」の2023年カレンダー

――すごい! そんなことがあるんですね。

そうなんです。はじめの頃は頭に浮かんだイメージを絵で描くことができなくて…、何度も挫折を味わいました。
私に声をかけてくださった上司がとても良くしてくださって、何度も修正を重ねて、ようやく商品化することができました。
あのときはすごく嬉しかったですね。
そこから、「社員にならないか」というお話もいただいて。これは神様の導きだ!と感じました。
ここでは商品デザインの基本などを叩き込まれました。
約4年働いた後に退社し、いまは独立してフリーランスとして活動しています。

――雑誌のページデザインから、雑貨デザインへという幅の広さにも、神様の計らいを感じます。
組織に所属せずに働くことに対して、抵抗はありませんでしたか?

個人事業主として登録したきっかけは、先に独立していた元上司からお誘いいただいて、ある駅ナカ商業施設のセレクトショップのブランディングに携わったことがきっかけでした。

元上司には「大変だよ」と聞いたり、再就職を勧められたりもしたのですが、父親が自営業者で、身近にも同じような立場の方が多かったこともあって、あまり抵抗はありませんでした。実家住まいだったという安心感も大きいかもしれませんね。

――お仕事をされる上で大切にしていることを教えてください。
さゆりさんがクリスチャンであることは、何かお仕事に影響がありますか?

大切にしているのは、ご依頼をいただいたときに、クライアントが何を求めているかをしっかりヒアリングすること。
その上で、私自身がこっちの方がいいのでは、と思うことがあればご提案もします。

自分がクリスチャンである、とわざわざ言うことはありませんが、影響しているとすれば、デザインそのものよりも、クライアントとのコミュニケーションの点でしょうか。
基本的なことではありますが、ズルはしないとか、自分が間違っていたら謝るとか。

私の好きな聖句のひとつに「隣人を自分のように愛しなさい」(マタイ22:39)があります。
無理難題を言われることもありますが、ご依頼をいただくということは、クライアントさんは困っているということですよね。そこにはお金(報酬)が発生しますが、自分ができる限りのことをやろう、何ができるだろうかと考えながら仕事に取り組んでいます。

「esther rose」のポストカード

――その誠実さがクライアントさんを「またさゆりさんにお願いしたい」という気持ちにさせたり、次のお仕事につながったりするのだと思います。

そうだったら嬉しいですね!

――今後、やってみたいことはありますか?

いままではどちらかというと“受け身”だったので、自分からも動いて、新しいことに挑戦したいなという想いがあります。
以前、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式のスピーチで『これまで学んできたことや人生におけるさまざま経験が、いつか点と点でつながる』というようなことを言っていて。
私もそんな風に、自分がこれまでにしてきたいろいろな経験を全部生かすことができたらいいな…と思いつつ、模索しているところです。

――可能性は無限大に広がっていると思います!素敵なお話をありがとうございました。

阿久津さゆりさんのポートフォリオは公式サイトにて
グッズデザインを手がけるesther roseはこちらから。

KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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