存在意義を模索する中、初めて思い浮かんだメロディ/ゴスペルシンガー エリカ・グレイスさん

4人姉弟の讃美ユニット「Ruah Worship(ルア・ワーシップ)」をはじめ、超教派(※)のワーシップグループ「THIRD PLACE WORSHIP」での活動など、さまざまなクリスチャン・アーティストとのコラボレーションの音楽制作の協力など、多岐に渡って活躍するエリカ・グレイスさん。子どもの頃から歌うことが大好きというエリカさんにシンガーとしての道のりを伺いました。※超教派…教団や教派を超えてキリストのために一致する活動。エキュメニズム、エキュメニカル運動

――さっそくですが、エリカさんの育った環境について教えてください。
ご家族は皆さん、クリスチャンですか?

そうです。辿っていくと、それぞれ別の教会の宣教師として日本に派遣されたオーストラリア人の祖父とイギリス人の祖母が日本で出会い、結婚をして母が生まれました。
父は日本人で、もともとクリスチャンではなかったのですが、大学生のときに祖父母が開いた教会の宣教師に出会ったのをきっかけに導かれたそうです。
かつての父は今と比べると想像できないくらい内気で、幼少期は周りが心配するほどだったそうなんですが、その宣教師の方がテレビに出演されていたのを観たことがあって、勇気を出して「あなたの家に遊びに行ってもいいですか?」って自分から声をかけたんですって。その時に渡されたのが、教会の住所だったそうです。
私は祖父母が開いた教会で育ち、今もこちらに通っています。

――クリスチャンホームで育った方から、思春期に一度教会から離れたという話をよく聞くのですが、エリカさんはいかがでしたか?

子どもの頃は日曜日に友達と遊べないことでいやな思いをしたり、何度か仮病を使って礼拝を休んだこともありましたが、でも、ありがたいことに両親が何事もイエス様に結びつけるような子育てをしてくれたので、神様から離れることはなかったですね。
周りには、親が決めたルール――いい子でいなければいけない」とか「罪を犯してはいけない」とか――に縛られた結果、反抗して教会から離れてしまったり、大学生くらいになってから想いが爆発してしまった子たちもいました。

――クリスチャンであってもなくても、親はついつい子どもにルールを押し付けがちですね…。
歌うことは子どもの頃から好きだったんでしょうか。

そうですね。母や、(母方の)祖父の影響もあって、小さい頃から好きだったと思います。
祖父は歌が上手で、子どもの頃の記憶として、祖父がメッセージ(※)しながら大きな声で讃美歌を歌っていたことを覚えています。
母は教会でピアノを弾いていたので、私たちきょうだいも礼拝で歌うことが当たり前のようになっていて、「特別讃美」として姉と妹と3人で歌ったりしていました。

夏休みと冬休みには、岩手に住んでいた父方の祖父母に会いに行っていたんですが、従兄弟と一緒に音楽会を開いていました。滞在中に歌やダンスを練習して、帰る前夜にみんなの前で発表するんです。そうすると、おばあちゃんが小銭をティッシュで包んだ“おひねり“を投げてくれて。周りに何もない田舎だったから、そうやってみんなで遊んでいたんですね。

※メッセージ…礼拝中に行う説教。聖書のことばを伝えること

――家族のミニコンサート、楽しそうです。
「ルア・ワーシップ」の活動はどなたの発案で始まったのでしょう?

以前から教会や友人の結婚式で、4人で歌う機会は結構ありましたが、明確にいつ結成したかは自分たちでもよくわからないんです。(笑)
あるとき、いとこの結婚式でリクエストされた曲を姉が編曲して歌ったのですが、「1回きりで終わらせてしまうのはもったいないよね」という話になって。
それぞれアメリカに留学していたのですが、ちょうど夏休みで日本に帰ってきたタイミングでもあったので、みんなが揃っている間に、と教会のピアノを囲んで撮影した『なんと素晴らしい/満たしてくださる方』をYouTubeに上げたのが4人で初めて歌った動画です。
その後、2020年2月にオリジナル曲5曲を収録したミニアルバム『主の約束』をリリースしました。

――公式サイトによるとお姉さんは音楽の先生を目指して留学されたとのことですが、エリカさんも早い段階で音楽の道を目指されたんでしょうか。

私も音楽を学びたいという思いがあり、高校時代にオリジナルの讃美曲作りに取り組んだこともあったのですが、1曲も書けなくて…。悩んだ末、自分にはその“たまもの”はないんだと諦めてコミュニケーション学部に進みました。

卒業後は就職をして、フロリダのテーマパークで約1年間働いていました。
周りには夢の国で働けるなんていいね、と思われがちですが、私にとって家族が誰一人近くにいない環境は初めて、同年代のクリスチャンの友人もいないしで…。
ノンクリスチャンの同僚の中で仕事をし続けることも苦しかったです。些細なことに思われるかもしれませんが、誰かの悪口にはなるべく共感しないとか、答えたくないような質問をはぐらかしたりだとか、自分の心を守ることに必死でした。
職場では日本語がわかるということで、クレームを含めた日本人への対応を任されていたのですが、「クレームが来たら」という緊張感やストレス、夜勤による生活の乱れが重なってホルモンバランスも崩れ…、毎日のように泣きながら姉や友人に連絡をしていました。

――それはとても辛い経験でしたね。

そうですね…。戻りたいとは思いませんが、でも、今となっては必要な時間だったと思っています。
学生時代は日曜日の礼拝に加えて、平日はミニストリー(※)に参加したりと毎日忙しくしていたので、それまでの人生で初めて仕事+週1回の礼拝だけ、という生活になりました。

※ミニストリー…教会やイエス・キリストの想いを広めるために活動すること。「奉仕」と呼ぶことも。

苦しい日々の中で自分の存在意義について考えるようになり、模索していました。
そんなある日、シャワーを浴びていた時にふっと頭にメロディやそれに合わせたフレーズが浮かんだんです。
自分にはできないと思っていた曲作りが初めてできたことで、これは自分の力や才能ではなく、神様が私の経験を通して与えてくださったものなんだと理解しました。
結果として、フロリダで過ごした1年の間で、最も辛かった1週間に3つのオリジナル曲が生まれました。
その後は長沢崇史さんなど他のシンガーのアルバム制作にも参加させていただいたり、たくさんの繋がりが生まれましたが、どれも想像していなかったこと。何一つ自分が頑張って得た人脈や経験ではなくて、すべて神様が計画されたことなんだなと思っています。

――辛かったことも含めて、一つひとつの経験に意味がありますね。
ところで「ルア・ワーシップ」ではどのように曲作りをされているんでしょうか。

毎年、4人でテーマやビジョンについて話し合うミーティングの場を設けるんですが、誰が作詞で、誰が作曲をして…と担当が決まっているわけではありません。
ときにはテーマを決めて曲作りをすることもありますが、基本的にはそれぞれが日々の生活を送る中で、神様との個人的な結びつきから曲が生まれることが多いです。

――歌うときに大切にされていることはありますか?

「ルア・ワーシップ」のコンサートでは、私自身が神様の想いを伝えるものとして、自分の感情をさらけ出すような感覚で表現をしています。
「このメロディや歌詞に込めたメッセージが、ストレートに伝わりますように」と祈りを込めて、お客様一人ひとりの目を見ながら歌うことも多いですね。

一方、礼拝での讃美をリードするときは、祈りながら歌う点では同じですが、自分自身を見てほしいとは思っていないというか…。
自分の声を聴いてもらうことではなく、自分の声を通して神様に心を向けてもらうことを目指しています。

――どちらも同じ「神様のための歌う」ことが目的であっても、微妙に違うんですね。
お子さんが産まれてから、音楽との向き合い方には変化はありましたか?

私自身の変化というよりも、音楽がどれほど幼い子どもたちにも影響するかを日々実感しています。
娘にとって、神様を讃美することや礼拝することが当たり前になればと、生後3か月頃から友人が携わっている「こどもさんび ちゃら」の音楽を聴かせているんですが、音楽に合わせて首を振ったり。他の曲だと泣き止まないのに、ちゃらの音楽だと泣き止んだり、落ち着いたり…。不思議ですよね。
これがライフスタイルなのか、音楽による効果なのかはわかりませんが、既に彼女の中で習慣化しているのを見ると、音楽や讃美歌、ワーシップソングの力ってすごいなと思います。

――最後に、これからやってみたいことがありましたら教えてください。

やりたいことは本当にたくさんあって…キッズやバンド、クワイヤー、フルオーケストラ演奏のコンサートなど、毎年のビジョンミーティングでもいろんなアイデアが出るんですよ。
私たちの中では家族だけで留まらせたくないという思いがあり、この3年間も本当にたくさんのアーティストの方達の助けを借りながら活動をしてきました。
神様がもしも許してくださるなら、これからもいろんな方たちと一緒に活動していきたいですし、できるだけ長く、年齢を重ねても音楽活動を続けていることが夢です。

――クワイヤーだったら、歌が苦手な私でも参加できるでしょうか…(笑)
素敵なお話をありがとうございました。これからのご活躍も楽しみにしています。

Ruah Worshipの公式HP:https://ruahworship.wixsite.com/praisehim
公式YouTubeチャンネル




KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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