日本で唯一の“プロテスタント系聖書彫刻家”として活躍する小泉恵一(こいずみ・けいいち)さん。
クリスチャン家庭に生まれ育ち、「初めて読んだ本が聖書だった」と語るほど、物心つく前から聖書が身近にあり、そこに書かれている言葉に支えられてきました。
創作の原点や信仰の歩み、そしてアートを通して聖書のメッセージを広く届けたいという小泉さんの軌跡をたどります。
学校に通えなかった子ども時代、聖書が心の拠り所だった
――小泉さんのこれまでの歩みについて教えてください。
芸術家の家系に生まれ、父は彫刻家であり画家でもありました。幼い頃から父の制作風景を間近で見て育ち、私自身も4歳頃には鉛筆を持って絵を描いていました。
両親ともにクリスチャンだったので、母のお腹の中にいる頃から教会に通っていました。かなり早い段階から自分自身もクリスチャンだという認識があり、初めて読んだ本も聖書でした。
小学生の頃に体調を崩し、中学・高校時代は学校に通えない期間が続きました。自宅で療養する日々のなかで、支えとなっていたのが、聖書とものづくりです。
聖書を深く読み込み、ネヘミヤ記(8章10節)「主を喜び祝うことこそ、あなたたちの力の源である」という言葉を励みにしていました。

小泉恵一さん
――幼い頃から、将来はものづくりに関わる仕事をしたいと考えていたのでしょうか。
子どもの頃は、いろいろなことに興味がありましたが、絵は「上手だね」と褒められることも多く、それを生かした仕事や進路に進みたいという思いも抱いていました。
ただ、それ以外のことはあまり得意ではないとも感じていましたね。とくに興味があったのは、雑誌や本のデザインです。インターネットもまだ普及していなかった当時、書店にはたくさんの雑誌が並んでいて、そのデザインの美しさに惹かれていました。文章と写真やイラストが組み合わせて、社会に発信する仕事に憧れを感じていました。
ほかにも、テレビゲームのクリエイターにも憧れていましたね。まだコンピュータグラフィックスが発展途上の時代に作品をつくり、同時にビジネスとしても成立させていることに、すごい世界だなぁと感じていました。
――アーティストとして活動するようになったきっかけは?
大きなきっかけがあったのは30代半ばです。それまでもずっと体調は良くなかったのですが、作品は作り続けていました。
あるとき、銀座のアートギャラリーのオーナーの方と出会い、その日たまたまバッグに入れていたアフリカ象をモチーフにした作品を見せたところ、「素晴らしいですね」と言っていただきました。
未完成の作品だったのですが、「完成したらまた持ってきてください」と声をかけてくださって。
それで完成した作品をお持ちしたところ、「これで個展をやりましょう」と言ってくださり、コネクションも何もないまま、突然個展を開催することになりました。これが作家としての活動のスタートです。
その後はクリスチャン作家のグループ展に参加し、銀座教会でイースターやクリスマスに開催されていた展覧会に出展させていただくようになりました。
また、別のギャラリーでも、当初はクリスチャンテーマに限らず動物などの作品を発表しながら、展示の機会が広がっていきました。個展に来てくださった方から「うちでも展示しませんか」と声をかけていただくなど、人のつながりの中で活動が広がっていきました。
さらにバイブル・アンド・アート・ミニストリーズ(Bible and Art Ministries)というクリスチャンアーティストの団体に参加し、現在は役員にも就任しています。

初めての個展で紹介された作品
――長く療養生活を送ってきた小泉さんにとって、個展のように多くの人が集まる場所に出ていくことは大きなチャレンジだったのでは?
グループ展は作品を展示するスタイルだったため、人と多く会話するような場面は少なく、そこまで負担は大きくありませんでした。
同世代とのコミュニケーションにはついていけないと感じていましたが、ギャラリーに集まる方は父親世代など年上の方々が多く、こうした環境のなかで少しずつ慣れていったという感じですね。
アートに関わる人たちは優しい方が多く、むやみに批判をしたりするような雰囲気もなかったので安心感がありました。
――小泉さんにとって、最大の転機はいつでしたか?
やはり、個展を開いたことで人生が大きく変わりましたね。
学校に通えない時期が長く、定職にも就いていない状態で、世間的には明確な肩書を持たない状態でしたが、個展をきっかけにひとりの“作家”として認識されるようになっていきました。
仕事の依頼もいただけるようになり、それまでのように経歴だけで判断されるのではなく、作品そのものを見てもらえるようになり、「この作家はどんな技術を持っているのか」「どんな表現をしているのか」といった点に関心が向けられるようになりました。
ただ、アートの世界にもさまざまな考え方があります。あるギャラリーでは作品を高く評価され、「ぜひ展示を」「学芸員を担当してほしい」と声をかけていただいたこともありましたが、美大を出ていないことを伝えた途端に、態度が一変して断られることもありました。
――それは悔しい思いをされましたね…。

こちらも初個展の作品
個展を通して、イエス・キリストのメッセージを伝える
――現在は、ギャラリーなどでの個展をメインに活動されているのでしょうか。
そうですね。
実は、ギャラリーは伝道の場としても大きな役割を果たしているんです。
以前、路傍伝道に参加したことがあるのですが、通行人に聖書の話をしようとしてもなかなか足を止めてもらえませんでした。当たり前ですよね。
その点、ギャラリーを訪れる人は、扉を開けた瞬間に作品を見るモードに自然と切り替わります。 ほとんどの場合、私も在廊していますから、その場で挨拶を交わし、作品について解説するなかで、自然な流れで聖書の話にもつながっていきます。そうした形だと、聖書に対する受け止め方が変わっていくのを感じています。
日本橋「ギャラリーカノン」で展示を行った際にも、作品解説として聖書の内容について丁寧に伝え、聖書本文もあわせて掲示しました。来場者の中には、その場で初めて聖書に触れたという方も多くいました。そのなかで、オーナーがいつしか信仰を持つようになり、ついには洗礼を受けたのです。これをきっかけにギャラリーカノンは「クリスチャン・アートギャラリー」としての性格を強めていくことになりました。
現在も年に1回、ギャラリーカノンで個展を開いているほか、5人のクリスチャンアーティストで結成した「Bezalel(ベツァルエル)」のグループ展も開催しています。
