メイクはありのままの美しさを引き出すもの/ヘアメイクアップアーティスト・愛結実さん

広告撮影やブライダル、七五三、成人式などのアニバーサリー、個人のプロフィール写真など、ジャンルにとらわれずさまざまな現場でヘアメイクアップアーティストとして活躍する愛結実(あゆみ)さん。「メイクは単に外見を美しく見せるためのものではなく、その人を内側から輝かせるもの」だといいます。

――素敵なお名前ですね。失礼ですが、ご本名ですか?

はい、そうなんです。
私の両親もクリスチャンで、“神様の愛と人とを結ぶ実”になれるようにと思いを込めてつけてくれました。

――ご両親の願いが込められたお名前なんですね。
愛結実さんのお仕事のご経歴を教えてください。美容の道を目指すようになったのはいつ頃からでしょうか?

高校生の頃から自分なりにメイクを楽しんだり、ダンス部の友達の髪の毛を編んだりと美容に興味はありましたが、当時は仕事にしたいとまでは思っていませんでした。
大学生時代はいつか海外で働けたらと日本語の教師を目指して勉強していたのですが、教授に日本語教師を目指すなら大学院を出て修士を取った方がいいと言われてからその気持ちも薄れてしまって…。
卒業してからフラフラしているわけにもいかないからと就職活動をしていた時期もありましたが、リーマンショックの直後で新卒採用をしている企業も少なく、自分としてもしっくりこなくて。
失敗してもいいから好きなことにチャレンジしてみよう!と、大学3年生の終わりから美容学校にも通い始め、卒業後はそのままヘアメイク事務所に入りました。

――美容関係のお仕事をされている方の多くは、高校卒業後に美容専門学校に進まれるイメージがあるので、ちょっと意外です。

そうですね。若い頃から目指している方が多いと思うのですが、私の場合は真逆でしたね。
当時の美容業界はザ・体育会系の本当に厳しい世界で、1人前になるまでに時間もかかるし、経済的にも厳しいこともわかっていたので、現実的に考えて仕事として続けるのは難しいだろうな、と。
せっかく好きなことを仕事にできたとしても、嫌になってしまうくらいなら、趣味で楽しめばいいと思っていたんです。
だから、事務所に所属が決まったときも、それほど期待はしていなかったというか――自分にできなかったらすっぱり諦めようと覚悟を決めていました。
その分、どんなに大変で過酷な状況に置かれても「こんなはずじゃなかった」とギャップを感じることはなく、むしろ私にとっては「早くうまくなって、デビューするんだ!」とバネになっていました。
今よりもずいぶん尖っていましたね(笑)

――そのめげずに進む力こそが、厳しい世界で続けられる秘訣だと思います。
独立はいつ頃から意識されていたんですか?

事務所に入る前から、独立しなければこの世界ではやっていけないだろうと考えていました。
それで、入所1年以内にデビューする、5年以内にトップ技術者になる、30歳までに独立すると短いスパンで目標を立て、これができなかったら辞めようと決めていました。
美容業界は特殊でそれぞれ専門職なので、次の仕事を考える上でも、自分に合わないなら早い段階で見切りをつけた方がいいと思っていたんです。

――独立されてからは、どうやってお仕事の幅を広げていったのでしょうか。

事務所で色々な現場を経験させていただいた中でも、ウェディングの仕事に力を入れていきたいと思ったのですが、当時はフリーランスのヘアメイクさんはまだ少ない時代です。
想像していたよりも早い、25歳で独立をしたので、初めの内はツテもなく、今のようにInstagramなど発信する場もなくて…。
業務提携のお仕事を受けながら、とにかく名刺を配り歩いていました。

独立してから半年ほど経ったある時、ウェディングのヘアメイクの依頼をしてくれた知人が、オーダーメイドのウェディングをプロデュースする「CRAZY WEDDING」で式を挙げると聞きました。
実は独立前からいつか仕事したいと思っていた会社だったので、新郎新婦にお願いして打ち合わせに同行させてもらい、その場で直接営業し、初めて業務提携を組むことになりました。
「CRAZY WEDDING」の現場で、カメラマンや映像クリエイターなどフリーランスのクリエイター仲間がたくさんできたことで、別の仕事をご紹介いただいたり、少しずつ広がっていきました。

――仕事柄、日曜日の礼拝には参加できないことも多いのでは?

そうですね、どうしても礼拝に出席する頻度は低くなってしまいますが、コロナ禍以降、オンライン配信されるようになったこともあって、仕事が終わってからなどにYouTubeで礼拝のメッセージを聴いたりしています。
教会に毎週通っていた時よりも、むしろ今の方が集中してメッセージと向き合ったり、祈る頻度や時間は増えました。

学生の頃は土曜日の夜に遅くまで遊んで、日曜日は礼拝中に寝てしまっていたことも…(苦笑)
「体がそこ(教会)にあればいいんでしょう」と義務的に通っていただけで、神様に心が向いていなかったんですね。

また、クリスチャンのウェディングサポートチーム「the VOW(バウ)」に参加しているので、結婚式を通して礼拝に参加する機会がたくさんあります。
クリスチャンにとっては結婚式も特別な礼拝なので、仕事を通してこうした機会が与えられているのはすごくありがたいですね。
「the VOW」はカメラマンやプランナーなど、すべてクリスチャンのクリエイターで構成されているチームなので、一緒に仕事ができるクリスチャンの仲間ができたことも嬉しいです。

――「the VOW」は以前、たまものクラブのインタビューにもご登場くださった市川五月さん亜久津かおりさんも参加されています。
日本だとクリスチャンと一緒に仕事をすることも、自分が通っている教会以外の礼拝に参加することも、貴重な機会ですよね。

実は、五月さんとは教会とはまったく関わりのない現場で出会ったんです。
良くも悪くも、クリスチャンであることを公言していると、何かと「クリスチャンだから」というフィルターをかけて見られがちですが、このときは1人のクリエイターさんとして素敵な人だなと思って声をかけたら、あとで偶然にもお互いがクリスチャンだったことを知って。
その後、「the VOW」の働きにもつながりました。
まさに導かれたとしか言いようがないというか、神様が出会わせてくれたのだと感じています。

――そうだったんですね。
ウェディング以外にも色々なお仕事をされていますが、得意分野などはあるのでしょうか。

ヘアメイク=外見をきれいに着飾るためのものと思われがちですが、自分に自信を持てるようになったり、内面から明るく、ポジティブになれたりする力があると思っているんですね。
だから、そんな表情が見られる仕事――たとえば、ウェディング以外にもいまの自分のいちばん美しい瞬間を残すことを目的とした「ブードアフォト」など、個人の方のヘアメイクをする仕事は心に残りますし、私自身の糧になっています。

一方、広告関連のお仕事は、さまざまな役割を持つ人たちとチームを組んで、みんなで1つの作品を作る工程もすごく楽しくて。
どんなジャンルであっても、誰かの心に響く仕事であったり、人と人との繋がりによって生み出される作品にやりがいを感じますね。

――メイクには人を内側から変えたり、応援する役割もあるんですね。

メイクをしていると、お客様の表情がどんどん変わっていくのがわかるんです。
それが見られるだけでもすごく嬉しいですし、メイクが完成した自分を見て「かわいい!」って言えるのは最高に素晴らしいことだと思っていて。
せっかく神様から与えられた自分のことを褒めるって、最大の感謝、賛美だと思うんです。

どんな人もきっと、自分の顔に対して「もっと鼻が高かったら」など、悩みやコンプレックスはあるでしょう。
でも、ありのままの自分を生かして、自分のことを好きになれたらすごく素敵ですよね。
私自身も若い頃、たくさんコンプレックスがあって、メイクやファッションに興味を持ったことをきっかけに明るくなれた経験があるので、同じような悩みを抱えている人にも伝えられたらと思っています。

――本当にそうですね。
私が10代の頃もそうでしたし、いま悩んでいる若い世代の方たちにも伝えたいです。

私はいつも、教育のプログラムに「美容」も組み込まれたらいいのにと思っているんです。
メイクって不思議で、学生時代は「学校では化粧なんかするな」と言われるのに、社会人になるといつのまにか“最低限のマナー”になっている。
それなのに、誰かから教わる機会ってほとんどないんですよね。
最近では「気に入らないところがあれば直せばいい」という感覚で手軽に美容整形が受けられたり、アプリで目を大きくするなどの加工したり、ありのままの自分の顔と向き合えない方が増えているように感じます。
10代の内にプロにきれいになるテクニックを教わって、「自分ってこんなに魅力的だったんだ」と思えるようになれたら、自己肯定感が上がって毎日がもっと楽しくなるのではと思います。

――メイクは粗を隠すものではなく、ありのままの自分と向き合う手段なんですね。
今までのお話をふまえて、これからやってみたいことはありますか?

私はクリスチャンホームで育った割には、クリスチャンのコミュニティが薄くて、クリスチャンではない友人の方が多いんですね。
だからこそ、私自身の働きを通して神様を証しする(※)ことができたらと思います。

クリスチャン以外の方にも「教会の結婚式って素敵だな、自分もこんな式を挙げたいな」と思ってもらえるような結婚式を作れたらと思いますし、最近は、クリエイター仲間から教会で結婚式を挙げたいというお客様を紹介してもらう機会も増えていて、「教会といえばこの人」と思い出してもらえるのは喜びです。

また、「the VOW」では、設備や人員確保などさまざまな事情から自分が通っている教会では式が挙げられない新郎新婦のサポートもはじめています。
結婚式を通して、周りの人にキリストの愛を伝えたいと願っているカップルの“架け橋”になれたら嬉しいですね。

※ 証(あか)しする…日々の暮らし方、言動などを通して、キリストの愛を伝えること

――素敵なお話をありがとうございました!

愛結実さんのInstagram:@hm_ayumi
the VOW:https://thevowwd.wixsite.com/thevow




KASAI MINORI

KASAI MINORI

主にカレーを食べています。

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