「洗礼を受けたのは13歳。イエス・キリストと同じ、ヨルダン川で受けました」/石田平和さん(前編)

大阪にあるイスラエルの聖地旅行を専門とする(株)ホーリーランドツーリストセンターの副代表を務める石田平和(いしだ・へいわ)さん。2025年3月に初の著書となる『17歳からたのしむ「聖書」』(内外出版社)が発売され、注目を集めています。前編では、これまでの経歴や、イスラエルの“いま”について伺います。

――さっそくですが、石田さんはクリスチャン家庭で生まれ育ったのでしょうか?

はい、両親ともに祖父母の代からクリスチャンです。
父は日本人で、神学を学ぶために渡ったシドニーでオーストラリア人の母と出会い、結婚しました。僕はシドニーで生まれ、11才までシドニーで暮らしていたんですよ。

――ということは、幼い頃から聖書やキリストの存在が常に身近にあったのでしょうか。

そうですね。というか、シドニーは日本と違って、キリスト教や教会に通う文化が当たり前に根付いてました。教会には子ども達がたくさんいて、日曜学校にも大勢の子どもたちが参加していましたよ。

――日本で暮らすようになってから、クリスチャン人口の少なさや、宗教そのものに嫌悪感を持つ人が多いなど、驚かれたのでは?

僕がクリスチャンだからという理由でいじめや差別を受けことはなかったです。
教会の規模も違いますし、それまで僕にとって日曜日は、教会で友達と遊ぶのが当たり前だったのが、急に……なんというか、真面目な雰囲気に変わったのでびっくりしました。

――子どもが少ない教会も多いし、きっと教会によってかなりカラーも違いますよね。洗礼を受けられたのはいつ頃ですか?

13歳の時です。
やっぱり、日本に移り住んでからのカルチャーショックが大きくて……。
「自分はなんのために生きているんだろう?」とか、改めて自分と向き合う中で、イエス・キリストが十字架に架けられるあの場面が、単に「過去にあった物語」ではなく、自分の人生と深く関わっているんだ、と初めて腑に落ちたんです。

それで、両親に「洗礼を受けたい」と話したところ、祖父がイスラエル聖地専門の旅行代理店「ホーリーランドツーリストセンター」を経営していることもあって、ならば、と父と祖父と3人でイスラエルに行き、ヨルダン川で洗礼を受けました。

――すごい! ヨルダン川で洗礼を受けた方に初めてお会いしました。(笑)その後はずっと日本に?

23歳から4年半ほど、イスラエルに滞在していました。
というのも、18歳から祖父の会社を手伝うようになり、いずれは継ぎたいという想いが強くなったんですね。だったらもっと現地のことを知りたいし、ヘブライ語で聖書を読めるようになりたい、と。大学卒業をしてすぐに結婚をしまして、2人でイスラエルに渡りました。

――ニュースで見聞きする情報だけだと、どうしても危険な印象を抱いてしまいますが、実際のイスラエルはどんな国なのでしょう?

地中海に面していて、とても美しい国です。
確かに戦争の脅威やガザなど危険な地域もありますが、少し離れれば、いまも普通の暮らしができている地域がたくさんあります。

イエス・キリストの布教活動の中心地「ガリラヤ湖」 (画像提供:石田平和)

砂漠に囲まれた環境下で、さまざまなアイデアや技術を駆使して緑化を進めていて、農業も盛んです。食料自給率は90%といわれているんですよ。
聖書的な観点でいえば、ユダヤ教の人々は今でも金曜日の日没から土曜日の日没までを「安息日」と定めていて、街にはほとんど人がいないし、中には交通機関さえお休みになってしまう地域もあります。
家族で集まって、みんなで祈り、神様に感謝の祈りを捧げる――多少は形式的になってしまっているかもしれませんが、こうした文化が今も受け継がれているのはとても素敵だと思います。

最も大きいのは、「イスラエル人」もしくは「ユダヤ人」を第一と考える人が多いことでしょうか。それはごく当たり前のことで、ナチスドイツによるホロコーストをはじめ、ユダヤ人は古くから迫害を受け続け、国土を持たずにさまよってきた歴史があります。だからそもそも、僕たちのようなアジア人が本当に少ないんですね。イスラエルの人々は、僕たちに対してとても優しくて、歓迎もしてくれました。ただ、どれだけ一緒にいても、仲間の一員になったという感覚がないんです。
聖書には、ユダヤ人にとっての異国の人を「異邦人」と書かれていますが、その境界線のようなものを感じていました。

――なるほど……。イスラエルではどんな生活をされていたんですか?

テルアビブ大学で「聖書考古学」を学んでいました。ものすごく簡単に言えば、聖書の舞台とされている土地や遺跡を発掘し、出土品を聖書の記述と照らし合わせる研究です。例えば、小さな土器のかけらに掘られた紋章から、「これは列王記(旧約聖書)に登場するヒゼキヤも孫かひ孫の時代ではないか」と考察したり。……というとすごく美化して聴こえますが、実際は朝4時から昼過ぎまでひたすら掘り続けるような活動です(笑)。

――発掘を通して、聖書の世界が立体的に感じられそうです。

本当にそうですね。いま、僕は祖父の会社の副代表を務めているのですが、ツアー参加者の中には、聖書に関連する遺跡をめぐりたいという方は多いですね。
でも実は、聖地巡りツアーを利用される方の多くはクリスチャンではない方のほうが多いんです。というのも、「聖書」は日本においては“宗教的な書物”という位置づけですが、世界的に見れば、最も多く読まれている本であり、販売数も、翻訳されている数も圧倒的に多いわけです。こうした背景からイスラエルや聖書に興味を持って来られる方が多いです。

――ちなみに、参加者の方が、ツアーをきっかけにクリスチャンになるということは……?

それはなかなか難しいですね(笑)。
僕としては、日本のクリスチャンの方々にもイスラエルに足を運んでいただきたいんです。
確かに、政治的に安定していない国ではありますが、聖書に登場する土地、イエス・キリストが歩いた場所をたどり、同じ景色を見ることで、聖書の理解がより深まったり、考え方や生き方に変化があったりするのではないかと思います。

後編に続く。

ホーリーランドツーリストセンターのHP


KASAI MINORI

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主にカレーを食べています。

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